労基法違反で書類送検、時代錯誤な経営が危機を招く~大成印刷(株)(後)
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今回の大成印刷の件について同業者に話を聞いたところ、以下のような回答が返ってきた。
業界関係者A
「もともと印刷業界自体に『残業が当たり前』という風習がある。従業員1人当たりの負担を減らすためにはシフト制を徹底させて業務を回していく必要があるが、そのためには人員が必要。しかし、専門的な知識が必要である以上、いきなり人員を増やすのは難しい。そのせいで今いる人員に業務負担がかかってしまうのは仕方のないことだ。大成印刷はまだ業界内では規模も大きく、人もいるからマシなほうではないだろうか。もっと小さな会社では、それこそ24時間フル稼働で2、3人の人数で仕事をこなしているところだってある。自分の仕事を自分で終わらせるのは当たり前のことだが、最近ではそれが通用しない。それに人を増やすことにはリスクがある。とくに最近の若者は軟弱で、すぐにやめてしまう。心身共に弱りやすい若者を扱うのは難しい」業界関係者B
「たしかに印刷業界の労働環境は悪いと言われている。けれど、今回のような問題は印刷業界に限ったことではなく、中小企業全体に言える話ではないだろうか。どの会社にも繁忙期・閑散期がある。どうしても会社の経営者は閑散期の仕事量に人員数を合わせてしまう。すると、繁忙期になると人が足りなくなり1人あたりの負担が増え、人が辞めていく。辞めた分はまた人員を補うが、増やすということはない。結局、企業構造が変わることもない。もちろん、印刷業者のなかでもうまく仕事をコントロールしている会社もある。たとえば、複数の仕事が入ってきたときに『これ以上、仕事を引き受けたら社員のキャパシティオーバーだ。断ろう』という判断を下すのか、『仕事があるときにやらないでどうする。多少無理をしてでも請け負うべきだ』と考えるのか。どちらが経営者として適格かどうかの問題ではなく、結局、その会社の在り方というものは経営者次第なところがある。大成印刷も『残業なんてどこでもやっている』と捉えるか、『これを機に企業体質を変えよう』とするかどうかで変わるのではないだろうか」
AとBの意見、それぞれに見られるのが、やはり印刷業界自体が労働環境の面で問題を抱えているということ。このような事件の再発を防ぐには、大成印刷は事業構造を根本的に見直さなければならない。
なお、大成印刷社員は今回の件について「今後はこのようなことがないように人員を増やし、現在行っている3交代制をさらに徹底させる。また、労働環境についての情報公開も行っていくつもりだ」とコメントしている。
労働時間と「過労死」
話は変わるが、11月が「過労死等防止啓発月間」だということを知っている人は少ないのではないだろうか。現在、過労死と認定される基準は、1カ月あたりの残業が80時間以上と決まっている。過重労働によって心身の健康に障害が生じ、死因に繋がったのか。労働災害と認定されるか、仕事との因果関係を判断するために80時間という「過労死ライン」が設定されている。
月80時間。稼働日が20日だとしたら、1日4時間の残業をするという計算だ。17時退社が21時退社になる、と言葉で聞くと心身に死に至るほどの負荷がかかるとは思えない。厚生労働省によると、残業時間と疲労蓄積度の関係は【図2】の通り。
週残業時間が「0時間」だと、疲労蓄積度が「高い」または「非常に高い」と判定される割合は10.1%。「1時間以上3時間未満」では17.7%、「3時間以上5時間未満」では20.0%、「5時間以上10時間未満」では27.3%、「10時間以上20時間未満」では45.3%、「20時間以上」では72.5%と、残業時間が増えるに従って疲労蓄積度の度合いも高くなってくる。
また、ストレスの状況と平均的な1週間の残業時間の関係は【図3】の通り。
週残業時間が「0時間」では、GHQ-12(精神健康調査)による判定が4点以上の者の割合は24.1%、「1時間以上3時間未満」では32.1%、「3時間以上5時間未満」では33.1%、「5時間以上10時間未満」では34.5%、「10時間以上20時間未満」では43.4%、「20時間以上」では54.4%となる。以上の結果からも、残業時間がいかに人体に影響を及ぼすかは明白だ。今回、大成印刷の30代の従業員は体調を崩し退職することとなった。しかしながら、残業時間が月158時間というのはいつ「過労死」が発生してもおかしくない状況。今までずっとそうやってきたから、うちの業界はそういう風習だから、という主張は成り立たない。
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時代の流れに合わせた企業構造改革
月当たり残業時間が100時間を越えたくらいで過労死するのは情けない。会社の業務をこなすというより、自分が請け負った仕事をプロとして完遂するという強い意識があれば、残業時間など関係ない。自分で起業した人は、それこそ寝袋を会社に持ち込んで、仕事に打ち込んだ時期があるはず。更にプロ意識があれば、上司を説得してでも良い成果を出せるように人的資源を獲得すべく最大の努力をすべき。それでも駄目なら、その会社が組織として機能していないので、転職を考えるべき。また、転職できるプロであるべき長期的に自分への投資を続けるべき。
これは武蔵野大学グローバル学部グローバルビジネス学科の長谷川秀夫教授が、電通の女性新入社員自殺の件を受け、SNS上で発信した言葉だ。
この発言はSNS上で一気に広がり、メディアで取り沙汰されるほど大きな反響を呼んだ。SNS上に寄せられたコメントの多くが「無知で時代錯誤だ」や「あまりにも非常識な発言」といった批判だった。武蔵野大学は正式に謝罪文を発表する結果となった。教授の処分も検討されている。しかし、この発言に共感を抱く経営者も多いのではないだろうか。「自分が請け負った仕事をプロとして完遂するという強い意識があれば、残業時間など関係ない」や「自分で起業した人は、それこそ寝袋を会社に持ち込んで、仕事に打ち込んだ時期があるはず」という発言は、業界関係者Aに通ずるものがある。職務という義務を果たしていない労働者をなぜ守らなければならないのか、というのも経営者の本音ではないか。
しかしながら、もう「寝袋を会社に持ち込んで、仕事に打ち込む」ような時代ではない。ネット上で上記の発言をした教授が猛反発を受けたことからもわかるように、正しいか正しくないかは別として「世間・時代の流れはそういった方向に変わっている」ことを各企業が自覚しなければならない。それでも昔ながらの体制を貫くのか、時代を受け入れて構造改革を図るのか。大成印刷だけではなく、中小企業全体が抱える課題だ。
(了)
<COMPANY INFORMATION>
代 表:清家 邦敏
所在地:福岡市博多区東那珂3-6-62
設 立:1970年10月
資本金:6,330万円
業 種:総合印刷
売上高:(16/3)29億4,500万円関連キーワード
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