生き残るための経営戦略にCSRは必須(1)
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横浜市立大学 教授 影山 摩子弥 氏
「企業の社会的責任」と訳されるCSR(Corporate Social Responsibility)。今では、企業の会社案内やホームページなどで「CSR」を目にする機会は増えているが、その意義や目的が、どれほど理解されているだろうか。今回は、福岡で若者の教育、就職、起業などの支援を行う立場からCSRの普及に取り組むNPO日本ソーシャルスクール協会・濱川一宏理事長とともに、印刷業界のCSR認定制度の作成に携わった横浜市立大学の影山摩子弥教授を取材。日本におけるCSRの現状と課題についてうかがった。
欧米の真似で生まれた誤解
――CSRを単なる社会貢献だと捉えている傾向があるように感じます。
影山摩子弥教授(以下、影山) 実際にそのような誤解が多いですね。チャリティーをやった企業が評価されて社会的地位があがるとか、その存在が認められるのであれば、私はそれで良いと思いますが、日本では「経営的意味を考えずにやらなくてはならない」という誤解がついて回っています。
誤解が生じた背景には、まず言葉の問題があります。日本では、「社会」という言葉は2つの局面で使われます。1つは市民社会など経済や福祉の領域を含んだ「社会」。国家と社会という文脈で使われることもあります。もう1つは、「社会領域」といった福祉的なイメージ。つまり、経済・経営ではない部分です。後者の解釈に基づきCSR=福祉的取り組みと誤解されることになった側面があります。もちろん、CSRの場合は前者の広い意味の社会です。
次に、日本のキャッチアップ型の経済成長が誤解の背景にあります。日本は、欧米の先進事例を参考に成長を遂げてきました。例えば、戦後、世界のトップに躍り出た米国は、参考にすべき先進事例がありませんので、トライ&エラーを重ねて、成長せねばなりませんでした。そこで、人々がさまざまなチャレンジができるよう、自由な市場を志向しました。他方、日本は、米国で成功したものを日本流に導入すればいい。また、米国市場を参考にしていますから、作ったものは米国に買ってもらうことができる。それによって日本は効率的に成長できました。それが高度成長です。中国の急速な成長と同じですね。それを効果的に進めるには、行政機関が米国の情報を集め分析し、企業に対してこうしなさいとアドバイスすればよいのです。だから、本社が東京にある必要があり、一極集中となります。これが日本の成長パターンで、欧米に学ぶというスタイルが身に付いたわけです。そうすると、本質を理解せず、表面を見てCSRを理解することになる。例えば、米国の企業が寄付をしていると、「寄付をすることがCSR」と解し、経営的意味があろうとなかろうと寄付をせねばならないとなってしまったわけです。
――米国企業の寄付の背景とはどういったものでしょうか。
影山 「寄付文化」があるなかで寄付をしなければ、社会から批判を受けます。つまり、CSRとは、「ステークホルダーのニーズを察知して、それに対応すること」です。日本はその本質を理解せず、表面だけを見て、CSRを社会貢献のことと誤解してしまったのです。
もちろん、社会貢献はCSRの一部です。では、なぜ社会貢献が企業の責任かというと、時代が変化してきたからです。戦後の成長を経て、先進各国は物質的に豊かになり、人々のニーズが高度化・多様化してきました。福祉や環境などの社会課題への取り組むニーズもそうです。しかし、低成長下、政府の財政状態は厳しく、社会課題にきめ細かく対応することが難しい状況です。そこで、NPOや企業が社会の一員として、それらの課題に答えることが求められるようになったわけです。
ただ、従来の企業に対するニーズが製品やサービスに関わるものであったのに対して、社会課題に対するニーズが新たに付け加わりました。その新たなニーズにスポットが当てられ、そのような変化を表現する新たな用語が求められた。それが社会的責任という用語であったと言えるわけです。
そうすると「社会」は福祉的課題を意味するように見えますが、違います。「おいしい製品」「製品の安全性」を求める声がなくなったわけではありません。それも含めて社会的責任であることを忘れてはなりません。
(つづく)
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