2024年12月28日( 土 )

トランプ「大統領」の外交・金融政策が日本を直撃する(2)

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副島国家戦略研究所(SNSI)研究員 中田 安彦

mcas_futenma 日米安保についてトランプが語ったなかで、日本政府に衝撃を与えたのは、タイムズ紙へのインタビューの中での発言だ。この中でトランプは在日・在韓米軍撤退と日韓の核武装について肯定する発言を行っている。在日米軍については、「アメリカは日本の防衛に巨額の資金を費やす余裕はない。日本が在日米軍の駐留経費の負担を大幅に増額しなければ、在日米軍を撤退させる。(撤退は)喜ばしいことではないが、答えはイエスだ」と発言した。
 また、「私は日本が大好きだし友人もたくさんいる。日本とビジネスをしてきた。しかし、アメリカが攻撃されても日本は何もする必要がない。日本が攻撃されたらアメリカは全力で守らなければならないのにだ」と片務的な同盟に対して不満を述べた。
 日米同盟やNATOの基礎となった北大西洋条約についても片務性を脱却するために再交渉を行うとも示唆している。片務性の議論は、これは「日米同盟の日本ただ乗り論」で、アメリカの側で日本に集団的自衛権の行使容認を促す背景になった論調でもある。トランプは「我々はこれ以上他国からむしり取られる訳にはいかない。我々は、どの国とも友好であり続ける、しかし、それは我々が他国から利用され続けることは意味しない」と言っている。

 また、インタビュアーから「日本や韓国が自前の核兵器を保有して北朝鮮や中国の脅威に対抗することに反対するか」と聞かれたことに対しては、「これまで米国は裕福だったので、同盟国を防衛することができたが、将来、米国が彼らを防衛することができなくなるかもしれない。そのことが同盟国の核武装を意味するということはありうる。大きな恐ろしい問題は核兵器が拡散してしまうことだが、我々はもはや裕福ではないのも事実だ」と事実上容認する考えを述べている。日本核武装容認論は、これまでもキッシンジャー元国務長官が退任後に繰り返し表明しているものの、大統領候補がここまであけすけに語っているのは異例だろう。

 そして、候補指名を確実にした5月上旬には、CNNのインタビューでこの在日米軍撤退論を再び持ち出している。この発言を詳しく報じた韓国の聯合ニュース(5月5日付)によると、「韓国は昨年、在韓米軍の人的費用の約50%を負担したが」と聞いたインタビュアーに対して、「なぜ100%負担ではダメなのか」と日韓両国やドイツなど米軍が駐留する国に全費用を負担させるという趣旨の発言かと聞かれると、「当然だ。すべての費用を負担すべきだ」と言い切ったと報じている。

 この発言に対しては、安倍首相が4月5日に米紙WSJへのインタビューで「予見できる将来、米国の存在が不必要になる状況は考えられない」と述べているほか、菅義偉官房長官も「誰が大統領になろうとも、日米安保体制を中核とする日米同盟は我が国の外交の基軸だ」とコメントしている。ただ、閣僚の一人である石破茂元防衛大臣は、連休の訪米中に、「米国が日本を守っているのだから、その経費を負担すべきだ」というのは日米安全保障条約への認識が欠けていると批判し、「日本に米軍基地があることで地域の安定と平和に寄与しており、米国の国益にも寄与している」と認識を改めるように促した。

 同じような批判は、ジャパン・ハンドラーズたちからも出てきており、CSIS(戦略国際問題研究所)のマイケル・グリーンは、ダイヤモンド・オンラインに「トランプ氏の反日的な主張は、今日の議会や財界、学界、国民の意見とはかなり異なる」と日本人は安心してほしいと述べている。また、グリーンは外交専門誌「フォーリン・ポリシー」の電子版に複数の識者の連名で、「アジアと欧州の米軍基地はアメリカが負担しているコストを上回る」として、「代わりの基地を探すのは財政的にも戦略的にも困難で、海外の米軍兵士11万4,000人を国内に戻すとしたら、米国がコストの全額負担をしなければならなくなる」ともトランプの撤退論に現実味がないことも批判している。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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