福岡で増加する在留外国人(前)

    一昔前と比べて、私たちの暮らしのなかでの大きな変化の1つとして挙げられるのが、外国人と接する機会が増えたことだ。インバウンド客はもちろんのこと、日本人とともに暮らす在留外国人も増えてきた。さまざまな生活シーンのなかに溶け込んでおり、もはや彼らと関わらずにいては、私たちの暮らしが成り立たない状況となっている。それは福岡県、福岡市においても同様だ。ここでは、在留外国人と共生するまちの在り方について考えてみたい。

右肩上がりに増える在留外国人

 梅雨時のある週末、福岡市中央区長浜の屋台に男女2人の外国人が座っていた。男性はオーストラリア人、女性はアメリカ人で、年齢は40代と30代と見受けられた。聞くと、昨年9月から博多区にある日本語学校で学び、どちらも卒業後に福岡県内のIT企業で働きたいとの希望をもっているとのことだ。「なぜ福岡なのか」──そう問いかけたところ、男性は「もともと、アニメ作品が大好きで日本に憧れがあった。東京や大阪も訪れたが、人が多くせわしない。福岡市はまちと海や山がコンパクトにまとまり、かつ家賃も安く暮らしやすい。それが福岡県内、とくに福岡市で暮らし、働きたい理由です」と話していた。

福岡名物の屋台のイメージ。常連となっている在留外国人もいる
福岡名物の屋台のイメージ。
常連となっている在留外国人もいる

    米国・ニューヨーク市出身という女性は、「世界一物価が高いまちからきた私にとって、日本は物価が低く、治安が良いと感じています。そのなかで福岡市は東京などへのアクセスが良く、屋台などアジアの趣きが強く、独特の魅力があると考え、暮らしてみたいと感じていました」と述べていた。2人とも福岡市内で暮らし始めてから、まだ1年弱。たどたどしい日本語で周囲の客との会話を楽しみ、おぼつかない箸の使い方で屋台グルメを楽しむ様子が印象的だった。

 コロナ禍の収束以降、街中で外国人旅行者を目にするケースが格段に増えたが、この男女のように、何らかの目的で県内に居住する外国人も増えている。法務省の統計によると、2024年末現在、福岡県における在留外国人数(外国人登録者数)は11万3,159人(23年末は9万9,695人)で、これは全都道府県で9番目に多い。15年末は6万407人であり、コロナ禍で一時的に減少したものの、右肩上がりで増加し、この10年で約5万人増加している計算となる【表1】。

 福岡県の統計によると、23年12月末時点で在留外国人の出身地はベトナム(2万1,369人)、中国(2万702人)、韓国・朝鮮(1万5,344人)、ネパール(1万4,125人)などの順で多かった。在留外国人が多い市町村は、福岡市(4万5,307人)、北九州市(1万6,187人)、久留米市(5,619人)に次いで糸島市(1,872人)、飯塚市(1,773人)、小郡市(1,470人)、苅田町(1,444人)、大野城市(1,228人)、古賀市(1,221人)、春日市(1,215人)の順で多かった。

表1,2,3

 在留資格別は【表2】の通りとなっている。最多が「留学生」で21.4%を占め、「永住者」(17.5%)、「その他」(15.5%)、「技能実習」(13.6%)、「特別永住者」(11.9%)などと続く。このうち、「技術・人文知識・国際業務」は高度人材、「特別永住者」は第二次大戦中に日本国民として暮らしていた韓国・朝鮮、中国、台湾出身の人たちを指す。【表3】は法務省の統計をベースに、福岡県における5年間の在留資格別の在留外国人の推移をまとめたものだ。それによると、大きく増えているのは「留学」と、「技能実習」「特定技能」である。

東区にはモスクも

 ここで、福岡市の状況を確認しておく。市の統計によると、25年4月末現在、市内で暮らす外国人は5万4,863人。国籍はネパール、中国、ベトナム、韓国・朝鮮などの順で多い。最も多く居住しているのは東区の1万4,849人で、次いで博多区の1万3,669人、南区の8,602人などとなっている【表4】。

表4

「福岡マスジド アンヌールイスラム文化センター」の外観
「福岡マスジド アンヌール
イスラム文化センター」の外観

 東区と博多区にとくに外国人が多い理由として、彼らの生活や文化に関わる施設が多いことが挙げられる。たとえば、東区にはイスラム教のモスク「福岡マスジド アンヌールイスラム文化センター」など、博多区には「リトルアジア」と称される吉塚市場などがあり、これらは主にアジア系外国人のコミュニティの場となっている。ベトナム、ネパールなど新興国出身者は東区の千代~箱崎、南区の大橋~井尻での集住も進んでおり、これは日本語学校やアジア物産店などが増えていることが要因の1つだ。このほか、東区と博多区には工場や倉庫などの事業所が多く、そこで働く外国人が居住している。

福岡における多文化共生の象徴 吉塚市場「リトルアジアマーケット」

 在留外国人が増えるなかで、日本各地に彼らのコミュニティが形成されている。福岡市において、その代表的な事例といえそうなのが博多区吉塚1丁目にある吉塚市場「リトルアジアマーケット」だ。東南アジアを中心とした商店と、鮮魚や青果、精肉などを取り扱う昔ながらの商店が共存しながら、営業が行われている。

 吉塚市場は戦後から現在に続く歴史ある商店街だが、周辺に大型店舗が出店したり、店主の高齢化で廃業したりすることで賑わいを失い、シャッター街化していた。そこで、周辺地域に数多く暮らすアジア系外国人に働きかけ、アジア系各国の飲食店や食材店、物産展などを誘致し、20年12月にオープンした。飲食店では中国や韓国、ベトナム、ミャンマー、ネパールといった各国の料理が味わえる。

 コミュニティスペース「アジアンプラザ」のほか、東南アジアでよく見られる黄金の仏像が鎮座する「吉塚御堂(通称=ヨシヅカ・ワット)が設けられるなど、単なる商店街ではなく、在留外国人の心の拠り所、地域住民を含めた交流の場となっているのが大きな特徴だ。店舗のなかには、銭湯をリノベーションしたミャンマー料理店などもあり、興味をそそられる。アーケードのなかを歩くと、アジアらしい香辛料の香りに包まれ、気軽に異国情緒も感じられる。まだ、開設されてから5年足らずだが、今後この商店街がどのような展開を見せるのか注目される。

吉塚市場「リトルアジアマーケット」

<INFORMATION>
吉塚市場リトルアジアマーケット

所在地:福岡市博多区吉塚1-14-15
TEL:092-409-3209(吉塚市場事務局)

「アジアのリーダー都市」目指す福岡市

 全国で9番目に在留外国人が多い福岡県のなかでも、福岡市は「アジアのリーダー都市ふくおか」「アジアの交流拠点」を掲げるなど、都市の国際化に積極的に取り組んでいる。ここでその国際政策、なかでも在留外国人との共生について確認しておきたい。

 市では12年に「福岡市基本構想」を策定し、目指す都市像として「住みたい、行きたい、働きたい。アジアの交流拠点都市・福岡」を掲げていた。現在は第9次計画(13~24年度まで)が完了した状況で、同計画では第3次実施計画(21~24年度)のなかで、国際化について「国際競争力を有し、アジアのモデル都市」を目標として、「アジアをはじめ世界の人にも暮らしやすいまちづくり」「外国人にも住みやすく活動しやすいまちづくり」を施策として掲げていた。その施策を実現するため、「福岡市外国人総合相談支援センター」(博多区店屋町)などの公的施設の開設や、日本教室設置への補助金、地域での交流事業の実施などを行っている。また、関係機関などとの有機的な連携を強化することを目的として、「福岡市地域日本語教育の推進に係る総合調整会議」を設置しているのも特徴の1つだ。

多言語対応や就業機会で比較的低い評価

 なお、福岡市外国人総合相談支援センターでは、在留手続や雇用、医療、福祉、出産・子育て・子どもの教育などの生活に関わるさまざまな相談を対面や電話、メールで受け付け、利用する外国人居住者への情報提供、関係機関への案内を実施。22の外国語に対応し、心理カウンセリング、行政書士、弁護士による無料の専門相談も行っている。

 ここで、福岡市が行った24年度の「福岡市外国籍市民アンケート報告書」の内容を確認しておきたい。滞在期間5年未満の外国人市民に関するもので、回答が得られた427件について分析したものだ。このなかで、総合的に見た福岡市の住みやすさを尋ねたところ、「住みやすい」(60.9%)と「どちらかといえば住みやすい」(33.0%)を合わせ「住みやすい」と評価した人は93.9%となっている【表5】。

表5

 また、福岡市の生活環境をl9項目に分けて、5段階評価で意見を集約。それによると、評価の高い項目としては「自然環境」(86.0%)が最も多く、「買い物などの日常生活の利便性」(77.0%)、「食べ物の新鮮さやおいしさ」(76.4%)、「市民マナー」(72.1%)、「交通の利便性」(71.7%)などが続いている。一方で、評価が低い項目としては、「物価」(36.6%)が最も多く、「多言語対応ができる場所の多さ」(28.4%)、「母国の食材を扱ったレストランやお店の数」(25.3%)、「就業(アルバイトやパート)機会の多さ」(16.1%)の順となっている【表6】。

表6

ワンストップで支援を行う「FUKUOKA IS OPENセンター」

 福岡県では在留外国人が増加傾向にある。そこで県が24年10月17日に開設したのが「FUKUOKA IS OPENセンター」だ。(公財)福岡県国際交流センターが運営する施設であり、県のほか国などの8つの海外国人材専門機関が一体となって、ワンストップで外国人居住者の生活や、就労などを支援。24の国や地域の言語に対応している。

 専門機関は福岡県留学生サポートセンター、福岡出入国在留管理局、福岡労働局(福岡外国人雇用サービスセンター)、福岡県弁護士会、福岡県行政書士会、福岡県社会保険労務士会、福岡法務局人権擁護部、日本貿易振興機構(ジェトロ)福岡貿易情報センター。在留資格や就労、相談(行政手続など)、住宅、医療、教育、人権といった外国人居住者への対応のほか、高度な知識や技術を持つ外国人の雇用や外国人活用に関するアドバイスを求める企業への対応も行っている。

「FUKUOKA-IS-OPENセンター」
「FUKUOKA-IS-OPENセンター」

<INFORMATION>
FUKUOKA IS OPENセンター
~Life and Work Support Center for International Residents~

〔所在地〕
福岡市中央区天神1-1-1
アクロス福岡3階県国際交流センター内
〔開館時間〕
月~金の午前10時~午後5時
(第3日曜日、第4土曜日は開館。年末年始、祝日を除く)
〔TEL〕
0120-279-906

(つづく)

【田中直輝】

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