韓国経済ウォッチ~韓国造船業の深刻な不況と構造調整(後)
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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)
それから、韓国の造船業が構造調整のタイミングを逸するようになったもう1つの要因は、原油高である。
原油高により原油価格が100ドルを超え、高止まりすることによって、海上油田を開発したいという需要がたくさんあった。そこで韓国の造船会社は、構造調整の道を選択せず、中国企業との競争を避けるために、海洋プラントの受注に走った。
海洋プラントの受注は、中国の企業ではほぼ対応できなかったので、当時としては良い選択のように見えた。だが問題は、韓国の造船会社は売上を確保したいという一心で海洋プラントにシフトしてしまったことだ。韓国の造船会社はコストを明確に把握できていないなかで、韓国企業同士で過当競争を繰り広げ、結果的に低価受注をすることになってしまった。その結果、今ではそのときに受注した海洋プラントの納期遅れ、工事補償金などで莫大な赤字を計上し、会社の存続を危うくしている。
さらに環境は一変し、現在は原油価格は大幅に下落。海洋プラントの開発は、採算が合わなくなっていて、プロジェクトのキャンセルが相次いでいる。それに、シェールオイルの増産も、海洋プラントには向かい風である。このように普通の造船では、中国の価格攻勢で利益が取れないし、海洋プラントではキャンセルが相次いでいて、受注は望めない状況である。それに最近になって往年の造船の世界覇者であった日本も、競争力を回復しつつある。日本は技術力と資本力を武器に、再び強豪として浮上している。
なお、造船業では大型化が進んでいるが、船舶代金のうち最大90%を船舶の引き渡し時にもらえるという「へビーテール」という方式も、韓国の造船業を苦しめる要因になっている。このような状況下で、韓国造船業では、政府を中心に造船業の構造調整などが声高に叫ばれている。
大宇海洋造船は、昨年4兆2,000億ウォンの公的資金を投入したにも関わらず、業績改善の兆しが見えないし、現代重工業も海洋プラントの納期遅れで1兆4,000億ウォンの赤字を計上した。サムスン重工業も似たような状況で、グループ会社であるサムスン電子の支援が切実な状況である。
政府関係者をはじめ業界では、貿易立国である韓国にとっては造船業は欠かすことのできない基幹産業であるという認識がある反面、一方では造船業を早目に構造調整をしないと、その対価はもっと大きくなるという認識もある。現在、計画されただけでも各社は3,000人前後の希望退職者を募っているようだが、造船業全体で8万人くらいの失業が予想されている。現在、造船業が立地している韓国の東南部では、不況の嵐が吹き荒れている。8万人の失業というと、家族まで含めると、30万人の生活が大変になることを意味する。
韓国の会社員の引退平均年齢は53歳だと言われているが、韓国では一旦会社をリタイアすると、その後、似たような条件の職に就くことがすごく難しい。韓国の老後貧困率はOECD加盟国のなかで1位になっているが、老後に就ける職がほとんどないのが、その原因である。職を失うことで貧困に陥ることもよくあるため、貧困が社会の不安にならないように、政府の配慮が必要である。企業側も、リストラ後に社員に再就職の機会を提供するなり、事後策を用意する必要がある。(了)
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