2分割的発想は思考の退化、人間の幼児化!(2)
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青山学院大学 特別招聘教授 榊原 英資 氏
日本社会の屋台骨が今さまざまな局面で、次第にしかも加速度的に崩れている。指導層の質が低下し、明らかに視野が狭くなり小粒になった。それは政治家も企業経営者も、ものごとを多面的に見ることができなくなり、幼児化したことを意味する。話題の書『幼児化する日本社会』(2007年7月、東洋経済新報社)に続き、近刊『幼児化する日本は内側から壊れる』(16年4月、同社)を著された元財務官・青山学院大学特別招聘教授の榊原英資氏に聞いた。
(取材日:7月12日)
日本人が2分割思考に陥る
――著書のなかで「日本の次世代リーダー養成塾」の話が出ています。少し詳しく教えていただけますか。
榊原 今、多くの日本人が「〇か×か」でしか物事を捉えられない2分割思考に陥っているのは、受けてきた教育のせいも大きいと考えています。グローバリゼーションが進み、新興国がどんどん成長していくなかで、日本国民が幼児化していくなどは、とんでもない現象です。とくに日本を背負って立つリーダーとなる若者たちには、バランス感覚に優れた大人になってもらわなくてはなりません。そんな危機感を持っていました。そこで、2004年に高校生を対象としたサマースクール「日本の次世代リーダー養成塾」の創設に参加したのです。
地方分権研究会という会合で、改革派知事と言われる人たちや学界、経済界の人々と日本の課題を考えるなかで、教育を何とかしなければいけないという話になったのが、塾創設のきっかけです。最初は全寮制の学校をイメージしていたのですが、それには費用もかかるので、まずはサマースクールから始めることになり、毎年夏に2週間、200人近くの高校生を合宿させています。
この「日本の次世代リーダー養成塾」では、合宿中は、彼・彼女らのスマホや携帯電話を預かり、2週間まったく触らせません。日常を離れてそこへ来た意味がなくなってしまうからです。スマホや携帯なしで、1部屋に20人くらい押し込めば、否応なしに初対面の相手とも話すようになります。合宿が終わる頃には皆、結構仲良くなっています。参加者の出身地は北海道から九州まで多岐に渡ります。住んでいる地域も学校で受ける教育も違う多くの人と接していれば、言いたいことをわかってもらうために、多種多様な言葉を駆使しなければならなくなります。
今、「日本の次世代リーダー養成塾」では、講演そして質疑応答、セミナーなどのほかにディベートをやっています。
「幼児」という言葉の対極の言葉は「大人」です。では、大人の考え方」とは何か――。それは、一言で言えば「すべてのことは灰色である」という考え方に立つことです。黒に近いものも、白に近いものもあるかもしれないが、黒のもの、白のものはあり得ないということです。この前提に立つと、ものごとを両面から見ることができるようになり、さらに進んで、多面的に見ることができるようになります。
「ディベート」では、この力を養うことができます。ディベートでは同じ人間が両方の立場を経験することができます。身を持って、ものごとには、すべからく2面性があるということを学習できるのです。これはとても大事なことで、政治の世界、経済の世界などすべての分野に共通しています。(つづく)
【金木 亮憲】<プロフィール>
榊原 英資(さかきばら・えいすけ)
青山学院大学特別招聘教授。(財)インド経済研究所理事長。1941年生まれ。東京大学経済学部卒業。大蔵省入省後、ミシガン大学で経済学博士号取得。IMFエコノミスト、ハーバード大学客員准教授を経て、大蔵省国際金融局長、財務官を歴任。2010年より現職。著書として『幼児化する日本社会』、『強い円は日本の国益』、『幼児化する日本は内側から壊れる』(東洋経済新報社)、『財務省』(新潮新書)など著書・論文多数。関連記事
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