2024年11月23日( 土 )

脱石油を目指すサウジアラビアの不信を買った安倍総理(前)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 サウジアラビアの経済が危機的状況を迎えている。原油安が長引いているため、国家収入のほぼ9割を原油輸出に依存してきたアラブ世界の大国にとって、未曾有の危機が迫っているからだ。9月末にアルジェリアの首都アルジェで開催された「石油輸出国機構(OPEC)」の臨時総会では、加盟14カ国の原油生産量を日量3,250万~3,300万バレルに制限することで合意が得られた。事前の予測では、イランとサウジの対立があり、合意は難しいとみられていたが、下落の続く原油価格のもたらす危機感が土壇場での合意形成に役立ったようだ。その結果、原油価格は1バレル47ドルにまで上昇した。

原油価格下落で危機的状況に

sekiyu 今回の減産合意について、加盟国がどのように分担するかは、11月30日にウィーンのOPEC本部で開催される総会に先送りされた。これから11月末までの間に、加盟国のみならず、非加盟国のロシアなどとの駆け引きが活発化することになるだろう。まだまだ予断は許されない。強気のイランはすでに制裁前の2011年の原油輸出水準にまで戻っており、減産の大半はサウジがかぶることになりそうだ。

 これまで世界最大の産油国のサウジアラビアは、自国のシェアを確保するためにあえて減産という選択肢を避けてきた。とくに、イランとの間で覇権争いが激化する兆しを見せていたため、サウジアラビアは国内経済をある程度は犠牲にする形で、減産という選択肢を避けてきたのである。また、それだけの体力があったのも事実だ。しかし、2014年夏には1バレル100ドル前後であった原油価格が、このところ30ドル台にまで値下がりしていたことは、サウジアラビアの経済を想像以上に深刻な状況に追いやってしまった。

 その影響は、サウジアラビアの経済・社会に暗雲を投げかけるようになった。たとえば、サウジアラビアの東部に位置する「サアド専門病院」では、従業員の給料が本年5月以降支払われていない。そのため、1,200人を超える従業員たちが、職場放棄という強硬手段に訴えるという前代未聞の労働争議が発生した。
 サウジアラビアでは、労働組合は厳しく禁止されているため、これまでデモや座り込みなどの労働争議とは無縁であった。しかし、今回の経済危機を受け、外国の医者、たとえば、イギリスやアメリカのドクターの間でも給料の支払いが滞ってしまったようだ。そのため、ドクターに限らず、看護婦や事務方のスタッフたちが出身の国籍を問わず、ソーシャルメディアを通じて、一致して行動をとることになったという。

 実は、この病院はサウジアラビアの大富豪、マアン・アル・サニーの所有するサアド・グループに属している。いわば、サウジアラビアの富を象徴する企業体である。そのような大企業がこうした現金不足に陥ったという事実は、事態の深刻さを想像させるに余りあるだろう。
 サウジアラビアの国民の8割は公務員に他ならない。病院をはじめ、建設現場やサービス産業の至る所で、主として南アジアからの出稼ぎ労働者が仕事をこなしている。インドやパキスタン、バングラデッシュやフィリピンといった国々からの労働者が、3Kを含む国内のサービス産業の半分以上を請け負っているのが、サウジアラビアの現状である。

 しかし、こうした出稼ぎ労働者たちへの給料が支払われないという異常事態に直面し、彼らを派遣している国の大使館では、何とか自国民の生活を支援しようと食料やシェルターの提供に乗り出した。とはいえ、数十万の単位で働いている、こうした海外の労働者たちを出身国の大使館が面倒をみるといっても、もはや限界にきているようだ。

(つづく)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 

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