シリーズ・金融機関淘汰の時代がやってきた(2)
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現代の奇書!「墓場まで持っていく話」をぶちまけた暴露本!~國重惇史(元・住友銀行取締役)著「住友銀行秘史」
これは現代の奇書だ!住友銀行元取締役の國重惇史氏による「戦後最大の経済事件」として有名なイトマン事件を暴露した「住友銀行秘史」(講談社、税別定価1800円)である。墓場まで持っていく話を洗いざらいぶちまけたのだ。これほどまでに銀行員の実態を赤裸々に明かした内幕物を読んだことはない。暴露本としてはピカイチだ。
内部告発状を送ったのは私だ
イトマン事件の発火点となったのが、「拝啓 土田銀行局長様 私共は伊藤萬の従業員であります」で始まる1990年5月14日付の内部告発文書だった。ここには「伊藤萬が不動産や株に投資した6,000億円が不良債権化している」として、その内訳が書かれていた。
当時、マスコミや情報関係者には必読となっており、筆者は出回っていたコピーを手に入れていた。差出人は、イトマン従業員一同。イトマンの従業員は、こんなトップシークレットとなる数字を知る立場にない。「住友銀行の天皇」と呼ばれた磯田一郎会長の反対派が仕掛けた怪文書という見方で一致していた。しかし、誰が告発したのかは不明だった。
それから四半世紀。「大蔵省とマスコミに『内部告発状』を送ったのは私だ」と名乗り出た人物がいた。本書の著者、國重惇史氏である。「このままでは闇社会の食い物にされる」。住友銀行の業務渉外部部付部長だった1990年3月、実情を耳にして真相究明を決意。以来、記録をつけた手帳8冊をもとに執筆した。
「10年に一年の逸材」と自負
國重氏は東京大学経済学部卒。1968年に住友銀行(現・三井住友銀行)に入行。エリートコースであるMOF担(大蔵省担当)を10年間、務めた。
「自分で言うのはなんだが、MOF担として、「國重の前に國重なし、國重の後に國重なし」と言われ、名をはせた」と書く。この言葉は、他人が褒め言葉として使うもので、本人は恥ずかしくて口にできるものではない。それをこうも臆面なく書く。「松下(武義秘書)室長にはよく言われていたものだ。昭和10年代の安藤太郎、20年代の樋口廣太郎、30年代の松下武義、そして40年代はお前だと。これらは、住友銀行の「政治部長」の系譜だ。10年に一人の逸材だというわけだ」
自意識過剰の自信家なのだろう。だから、他人がバカにしか見えない。登場人物はほとんどが実名だ。暴力団、地上げ屋などの闇の勢力によって住友銀行が喰い物にされるという前代未聞の事件の最中、國重氏はうろたえる当時の住銀幹部たちが、なにを話し、どう立ち振る舞ったのかを8冊分の手帳をもとにリアルに描いている。
当時、銀行内では、イトマン問題を先送りしようとする磯田一郎会長、西貞三郎副頭取らの一派と、いち早く膿を出し切ろうとする玉井英二副頭取、松下武義常務らの一派が対立。そこに住銀内部の人事抗争が絡み合い、壮絶な行内闘争が繰り広げられていた。そのなかで、右往左往する幹部たちの姿を槍玉にあげる。
「臼井(孝之)専務は、どちらにつこうとしていたのだろうか。(磯田派の総決起集会にあたる)浅草の三社祭のメンバーには入っているが、改革派の前では正論を語る。どちらでもいい顔をしておいて、二股をかけながら形勢を見て動こうとしていたのだろう」
こうした辛辣な幹部評が随所に出てくる。居酒屋で同僚と盛り上がっている人物評を、まるで聞き耳を立てていたかのように書きとめる。俎上にのぼった幹部たちがおもしろいわけがない。「國重の野郎!あいつだけは許せない」と激怒していることだろう。
國重氏と二人三脚で仕掛けた日経の大塚記者
イトマンを喰いものにした伊藤寿永光、許永中といった闇社会の怪人については、多数の本が出版されているので割愛する。本書を読み、初めて知って、最も驚いたのは日本経済新聞の大塚将司記者との関係だ。
「大手マスコミと私たちというのは、取材する側とされる側という間を越えて、時には共犯者のような関係になる」
共犯関係の相方が大塚記者だ。大塚記者との打ち合わせが連日のように出てくる。大塚記者は、國重氏と一体となって磯田会長の追い落しを仕掛ける。大塚記者は新聞記事を書いて外から攻め、國重氏は内部告発状を書いて内から攻撃する。息があったコンビぶりだ。國重氏が、大蔵省に内部告発状を送付する直前に、大塚記者から電話があった。
「日経の経済部が(イトマンを書くことに)ひびっている。内部告発が大切な意味を持ってくる。住銀から経済部にチェックが入ったかも。「派閥闘争の片方に加担していないな」だと」
日経の上層部は、大塚記者が派閥抗争に利用されているのではないかと危惧していたのだ。本書を読んで、國重氏と二人三脚で磯田会長の追い落しに動いていたことがわかり、日経は仰天していることだろう。取材先とどんなに親しくなっても、客観的な報道に徹するというのが記者の矜持であるからだ。これぞ癒着のお手本。記者としての一線を越えたと言わざるを得ない。
それだけに日経の読者に与えるインパクトは大きい。客観報道を装っているが、所詮は「ブラックと同じではないか」と思われてしまったからだ。日経は『住友銀行秘史』の書評をどう書くのか。國重氏の盟友である大塚記者に触れないわけにはいくまい。いくらなんでも、スクープ記者の鑑とは書けないだろう。日経の書評を是非、読んでみたいものだ。
ダブル不倫で、楽天副会長を辞任
イトマン事件が火を吹き、磯田一郎会長一派は住銀を追われ、反磯田派の天下になった。國重氏は94年に48歳の若さで取締役に就いた。自らを「乱世の英雄」と称する國重氏は、「平和な世の中では、その存在を必要とされない」と書く。97年に西川善文氏が頭取に就任にすると、厄介者のように外に出された。
99年DLJディレクトSFG証券社長に。2003年に楽天が同社を買収し、國重氏も楽天入り。楽天副会長当時の2014年、『週刊新潮』(5月1日号)で、専業主婦とのダブル不倫が報じられ、辞任に追いやられた。住銀の内部告発者だった國重氏は、女性の不倫交際の告発で失脚した。「因果は巡る」というほかはない。
【追記】いやーこの本を読んで驚いた。当時の磯田会長らがこんなに簡単にヤクザまがいの連中に手玉に取られたことを知るにつけて呆れるばかりである。銀行淘汰は1992年あたりから始まったのだ。
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