2024年11月16日( 土 )

豊洲新市場の構造計算に【耐震偽装】の疑いあり!(4)~水産仲卸売場棟

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協同組合建築構造調査機構 代表理事 仲盛 昭二 氏

4.構造計算書に地下階が存在しない
 テレビなどで何度も報道されている通り、水産仲卸売場棟の地下部分は空洞となっています。本来は、RC造(鉄筋コンクリート造)の地下階がある建物とモデル化して構造計算を行うべきです。しかし、構造計算書におけるモデル化は地上部分のみであり、地下階は含まれていません。当然のことながら、構造計算と実際の建物の階数が異なっている(不整合)のです。これは、RC造とSRC造と鉄骨造という異種構造の混用を避けたかったという意思が働いたことも考えられます。階数の設定次第で、構造計算の数値も、当然、変動します。

 実際に、建物の最下部には地中梁が設けられていないことが判明しています。構造設計上、どこが1階であるのか判別が難しい不可解な構造となっています。
 構造計算書では地上1階部分が1階であり、地下階が存在しない構造モデルとなっています。実際に建築された建物通りにモデル化した構造計算をやり直した場合、様々な数値が変動します。構造の階数が増加するので、数値の変動は、当然、危険側(不利な)の数値となり、耐震強度が上がることは、普通では考えられません。

 耐震強度が安全な数値となるようにする方法としては、上部の階数を減じる「減築」などの方法に限られるのではないでしょうか。減築とは、耐震改修などでも行われていますが、文字通り、増築の反対で、建物の最上階を解体するなどして、地震力そのものを減じて、安全な耐震強度を確保するという方法です。これは、あくまでも、建物の構造に限定した判断です。
振動特性係数(Rt)が、計算書の箇所によって、「0.996」であったり、「1.0」と食い違う箇所があります。自動計算で算出された数値である0.996を構造設計者の判断で、1.0に引き上げることは、工学的に有り得ます。しかし、同じ構造計算書のなかにおいて、同一であるはずの数値が整合せず一貫性がなく、不自然で不適切な計算書となっています。何か特別な理由があるのであれば、日建設計は、合理的な説明をすべきです。

 保有水平耐力比が都条例で定めた「1.25=1.0」ギリギリであることを考えると、この建物は、あまりにも余力が少なく、都民の食生活に直結する施設として、甚だ不適切な構造となっています。以上、構造計算書を簡単に検証しただけでの感想です。豊洲新市場の運用開始については、慎重な検証を重ねた上で、判断をすべきであると考えます。

 この建物の設計を担当した日建設計は、1900年創業の我が国で最も歴史のある最大手の設計事務所であり、東京タワーなど多くの有名な建築の設計に関わっています。我が国を代表する設計事務所が構造計算の偽装を行うとは私には想像もできないことです。
 これは推測の域を出ませんが、公共建築物は審査が甘い計画通知であると見越した上で、不適切な構造計算書を作成したという可能性があるのではないでしょうか? 民間建築物と公共建築物では、構造計算書作成の手法を区別していたことも考えられます。

 余談ですが、これが豊洲に限ったことなのか、常態化していたのか、日建設計が手がけた建物には公共の重要な建物が多いだけに、この調査は緊急を要するかと思います。豊洲の設計上の問題点について、日建設計は無回答を続けていますが、多大なる設計実績の物件に影響を与えることなので、安易に回答できないのではないでしょうか? ここまで豊洲が大きな社会問題となった以上、日建設計は説明責任を果たさなければならないと思います。上記で指摘した構造に関する疑問点について、合理的な説明ができず、構造上の安全を確認できなければ、建築基準法違反となります。建築基準法違反は刑事告発の対象です。

 日本最大手の日建設計に関して、私のように苦言を呈する現役の建築関係者はいないと思います。このことによって、私も何らかの圧力を受けることがあるかも知れません。しかし、建築構造に携わる者として、現在の我が国で頻繁に発生する地震による甚大な建物被害を前に、少しでも、それを低減することができればと考え、あえて、このような苦言を呈するものです。

(つづく)

※この記事は、豊洲新市場の一部である水産仲卸売場棟に関する設計図書の内、提供された資料に基づくものです。また、私が検証したものは、ごく一部に過ぎません。すべての設計図書が入手できれば、さらに検証をすることは、やぶさかではありません。

 
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