石原都政の負の遺産と小池都知事の戦い(後)
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副島国家戦略研究所(SNSI) 中田 安彦 氏
着地点を見出すには ねばり強い足腰が必要
今のところは小池知事にとっての最大の課題は、「抱え込まされた問題」の着地点を上手く見つけ出すことである。豊洲問題の検証を掲げることで、以前共産党の支援を受けて都知事選に出馬した宇都宮健児元日弁連会長の支持すら得ることができた。思想的には全く逆にあたる宇都宮氏を含め、ほぼ「オール都民」の支持を得たわけだ。しかし豊洲、五輪問題ともに時間がない。
まだ見込みがありそうなのは、五輪の会場の変更の方で、ボートレースなどは金のかかる東京の湾岸地区から埼玉県や宮城県が浮上しているが、私は埼玉県が可能性があると思う。
豊洲は11月上旬の移転を延期して、石原都知事のときに浮上した築地の移転の経緯を検証する。豊洲の市場予定地はもともと東京ガスの用地で、ベンゼンなどの環境汚染が発覚した際には、建物下に「盛り土」をして対策するとされていたが、これが実施されずにコンクリの地下空間を建設。この責任者を追求すると小池知事が宣言し、過去の築地市場長や専門会議に対して聞き取りを進めており、豊洲移転の発火点である石原元知事まで追求しようとしているのが現在の「劇場」の状態だ。都民は拍手喝采であるが、これはいつまでも続くものではない。
築地市場の移転延期で来年初めまでは時間を稼げたと言えるが、総工費5,000億円以上もかかった豊洲への移転を白紙にすることには、築地の業者などの利害関係者に対する補償問題だけではなく、建設費用というコストをどのように回収するのかという問題が絡んでくる。小池知事はこの点について着地点を見つけているようには見えない。豊洲用地の代替活用案について、墓地とか巨大な倉庫とか、はてはカジノとかいろいろな案がメディアでは浮上しているが、まだ五里霧中だ。カジノは一見妙案のようにみえるが、豊洲の埋立地の一部にはタワーマンションなどもあり、風紀上問題があるカジノはこのままでは建設できないと指摘されているし、何よりもカジノ法案自体が今の臨時国会で審議入りできるかどうか、というレベルの話であるから、「捕らぬ狸の皮算用」のような話である。
実際問題、これまでかかってきたコストや業者に対する補償問題を考えると、卸売市場は豊洲へ移転せざるを得ないだろう。築地には場内市場と場外市場の2つがあり、それぞれに飲食店と店舗がある。築地の場外の店舗はこのまま移転せず残ることが決まっているので、観光客向けの築地らしさやブランドは残せるのではないか。豊洲の土壌汚染が問題と言われるが、築地の環境も決してベストとはいえない。一部の業者から使用者の事を考えていない設計だと言われた豊洲新市場だが、無理にでも使う方向で決まっていくだろう。その際に、鳩山政権が味わったような「敗北感」を小池知事が都民に与えないことが、彼女が強固な権力基盤を作れるかどうかのカギになる。彼女がかかげているのは「都政の透明化」と「情報公開」であり、仮に移転実施ということになっても、都民の側に「小池さん頑張った。これだけ都政の伏魔殿が暴かれてよかった」という納得感を与えることができればよいのである。それすらできないまま右往左往する場合には、前の2人の知事のように短命政権に終わる可能性すらあるわけだ。
小池知事は先に紹介したテレビ番組のなかで、自分が好きなのは「ケンカの強い男性」だと語っている。しかし、まずは彼女自身が頭脳戦、体力戦に勝ち抜く強靭なスタミナを身につけなければならない、と言えそうだ。
(了)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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