2024年12月23日( 月 )

日建設計は観念すべき!豊洲新市場の構造計算に疑義あり

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協同組合建築構造調査機構 代表理事 仲盛 昭二 氏

 東京の豊洲新市場(水産仲卸売場棟)の構造計算について10月25日、日建設計による説明がテレビで放映されましたが、建築関係法令規準に関して、十分な説明とは言えないものでした。改めて、法規に照らし、この建物の構造上の問題点を挙げていきます。

1.保有水平耐力計算におけるDs値(構造特性係数)に関する疑義
toyosu 地下空間で問題となっている水産仲卸売場棟の柱は、鉄骨の周囲を鉄筋コンクリートで囲む形状となっています(梁は鉄骨造)。柱に関しては、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)と認識でき、1階の柱脚(柱の最下部)は地下部分に埋め込まれていない「ピン柱脚」(設計者が計算書にピン柱脚とのコメントを明確に記入)となっています。SRC造のピン柱脚の場合、ベースプレートの下部に鉄骨が存在しないので、これより下部の層についてはRC造として計算するよう、「2007年版 建築物の構造関係技術基準解説書(国土交通省監修)」において規定されています。つまり、SRC造の場合だけの特例である「0.05」のDs値の低減が適用されず、結果的に、1階のDs値(構造特性係数)は上階よりも「0.05」高い厳しい数値としなければなりません。この点だけを取り上げても、約15%の耐力偽装となっています。要するに、“最下階の柱の強度が15%も偽装されている”という事です。

 1階X方向のDs値は0.3として計算されていますが、Ds値が0.35となった場合、
 Qun=Qud×Fes×DS=653,131kN×1.0×0.35=228,596kN
 となります。

 保有水平耐力比(耐震強度)は、
 Qu/Qun=245,818kN÷228,596kN = 1.07 < 1.25
 となり、公共建築物としてクリアしなければならない都条例が定める公共建築物の規定である「1.25」を大きく下回ってしまいます。民間の建築物であれば、保有水平耐力比は1.0以上あれば安全とされていますが、1.25を下回っていれば、公共建築物として、もちろんNGです。市場として使い物にならないということです。

2.柱脚の鉄量が必要鉄量の規定を全く満足していない(44%不足)
 「建築物の構造規定」(日本建築センター刊、建設省監修)によれば、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)の1階鉄骨柱の柱脚がピン柱脚である場合、柱脚の鉄量(鉄筋とアンカーボルトの断面積の合計)が、柱頭の鉄量(鉄骨と鉄筋の断面積の合計)と等量以上にしなければならないと定められています。この規定を、柱符号C601の1階の柱頭と柱脚に当てはめた場合、以下のようになります。

1

 この規定は、柱が引張を受けた場合に、ベースプレートが上部のコンクリートを持ち上げ、変形がアンカー部に集中し、ベースプレート下に大きなひび割れが入り、その部分のアンカーボルトと鉄筋が集中的に伸びることを防止する目的の規定です。特別な実験や解析を行った場合は70%まで緩和されるケース(文献)もありますが、それ以外は仕様規定を守るべきとされています。当該建物は重要な仕様規定を無視しているのであり、構造設計担当者は、規定を上回る理論を踏まえた上で設計をしているはずなので、その理論を以って合理的で納得のいく説明をすべきだと思います。

 最も重要な最下階の柱脚に必要とされる鉄量(鉄筋量)の56%の強度しか存在しないのです。

 1階の鉄量が極端に少なく、前述のように、1階の保有水平耐力比が実質83%しかないので、最も強くあるべき肝心の1階が最も弱い建物となっており、
 (上記の)56%×83%=46%(法規定の46%)
 いくら上部が強くても、足元が弱く、安全性が確保できない危険な建物だと言えます。

3.構造階数の不整合?と推察される部分
 水産仲卸売場棟の構造計算書における構造階数が、計算書のなかで食い違いがあります。1階から3階までをまとめて、1階の階高を6.2mとした頁と、1階の階高を3.4m、2階の階高を2.8mと分けた頁が存在します。テレビで、高野建築士が、階数の矛盾を指摘されていたことはもっともだと思います。

 この計算書では、層間変形角が200分の1を下回っていること(明確な法律違反)について、コメントを追記しており、層間変形角が規定より大きい建物であることがわかります。層間変形角とは、地震など水平力による、層と層の間(いわゆる「階」)の変形量と階高との比率を表したものです。「変形量÷階高」なので、同じ変形量でも、階高が高いほど、安全性が高い数値となります。

 たとえば、地震時の水平方向の変形量が2cm、階高を300cmとした場合の層間変形角は、2cm/300cm=1/150 となります。同じ変形量で、階高を600cmとした場合、2cm/600cm=1/300 となります。建築基準法の規定を、個人の判断で変えることは絶対にできません。

 これは推測ですが、設計者は、層間変形量を抑えるために、階高が高くなるように設定したのではないでしょうか(あくまで推測の域です)。仕上げ材が追従できる場合、層間変形角の緩和がありますが、それは、あくまでも、純粋な鉄骨構造における緩和措置であり、豊洲のようなSRC構造の場合の層間変形角は、200分の1以内とすべきです。

 構造計算に使用されるプログラムは、常に一貫性が求められます。姉歯事件における構造偽装は、構造計算書に一貫性がない(別々の計算書を合体)計算書を作成し、耐震強度が不足している建物を、耐震強度があるかのように見せかけたものです。国交省は、この事件をきっかけに、構造計算書の一貫性についても法改正により厳しく規定したので、審査機関も、当然、厳しく審査しており、法改正以降は、一貫性のない構造計算書は存在しないものと思っていました。しかし、豊洲の場合、「計画通知」という、いわば役人たちの仲間意識による「ザル」的な審査により問題点がノーチェックだったため、一貫性の無い構造計算書が提出されても何ら指摘されることがなかったのではないかと思われます。

【日建設計=姉歯事件】の構図
 日建設計は、日本を代表する最大手の設計事務所ですので、私が列挙した指摘について、法的に明確な説明をすべきです。日建設計が、法的に説明できないのであれば、「日建設計」=「姉歯事件と同様」と定義付けられることになります。これまでに日建設計が関与した物件についても、検証の必要性という問題にまで発展する可能性もあります。

 日建設計だけは、法規定の適用外ということであれば、我が国の建築確認制度の根幹を崩壊させるものです。25日の日建設計の説明は、指摘されたことだけについて説明するというものであり、これはまさに建築基準法を知らない一般の方に向けて発信された、ごまかしの受け答えと言わざるを得ず、納得できるものではありません。「見つかったら、返せばいい」という、まさに「泥棒理論」に他なりません。

 

 

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