キッシンジャーが根回しするトランプ新政権の東アジア外交政策(後)
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副島国家戦略研究所・中田安彦
ヒラリー・クリントンの周りの外交エスタブリッシュメントが反ロシア的なネオコン派が多い中、キッシンジャーはプーチン大統領とも親しい。ネオコン派が民主化を旗印にしてウクライナなどロシアの勢力圏に手を出したことにも危機感を抱いている。トランプ政権はテロとの戦いを継続するが、ヒラリーがいなくなったあとのケリー国務長官時代以上にロシアとの協調を深めざるを得ない。トランプは孤立主義的あるいはモンロー主義的な外交思想を色濃く持っていると言われるが、それ故に中国やロシアが支配的なユーラシア大陸の国々で無理に民主化を仕掛けることはしないということになるだろう。シェール革命によって、アメリカ自身が資源国になったこともあり、石油・ガスの権益を求めて中央アジアのパワーゲームを展開するよりは、テロとの戦いを中心に据えるだろう。トランプはすでに中央アジアのカザフスタンのナザルバエフ大統領とも電話会談しているが、これもアフガンでのテロとの戦いを意識したものだろう。
ただし、太平洋はアメリカにとっても、中国の海洋進出にとっても依然として重要な海であり、ここは中国が「航行の自由」(アメリカの軍艦の自由な往来を妨げないようにする)を阻害した時は批判するだろうし、米中の潜水艦がお互いに睨みを効かせて牽制し合うことになるのではないか。それ以外のことは地域の国々で処理するように促す傾向が増えるだろう。それを先取りしているのが、中国との融和姿勢と親米姿勢を巧みに使い分けているフィリピンのドゥテルテ大統領だ。前にも述べたように、レーガン政権時代は意外なほどにアメリカは軍事力を行使していない。トランプ政権が再び911事件のような大事件をきっかけに、ネオコンに乗っ取られなければ、大国間の政治についてはレーガン政権同様に比較的に安定した世界情勢が生まれるのではないか。トランプはレーガン政権のスローガンでもあった「peace through strength」を旗印に、大国に対する抑止力を重視しつつ、実務的な外交を行っていくだろう。
(了)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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