2024年12月27日( 金 )

自社の麺で熊本を元気に――熊本企業の奮闘と、地元復興への思い

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 2016年4月12日に発生した熊本地震よりまもなく1年――。熊本県では震災からの復興を目指し、地元企業が日々奮闘している。

 熊本県上益城郡甲佐町に本社を構える(有)肥後そう川も、その1つだ。肥後そう川はこだわりの手延べ製法で、素麺やうどんだけでなくそばや冷麦、パスタ、ラーメンと多岐にわたる麺類を製造。製品に使用されている小麦粉はすべて熊本県産だ。
 一般的な麺の製法は、最終的に切って麺を成形する。手延べ麺の場合、麺を切らずに1本を長く長く延ばして成形するため、複雑な工程となる。しかし多くの工程を必要とする手延べ麺は、その分美味しさを増す。

 肥後そう川の持ち味は、なんといっても独自の製法で生み出された手延べのコシと、生の柔らかさを併せ持つもちもちとした食感だ。15年に商標登録された「潤生」とは、一度乾燥熟成した麵(乾麺)に、湿度99%程のサウナ室で水分をじっくり与えて生に戻す製法。通常の乾麺は水分含有量が12~13%程度だが、潤生麺は22%くらいの水分を含む。乾麺と違い柔らかいため、袋詰めもすべて手作業で行わなければならない。「本来は乾麺にして完成するところに、もうひと工程必要になりますので、非常に手間がかかります。それでも生産するのは、その分美味しさが増すからです。とくに素麺とうどんは間違いなく美味しい」同社取締役専務兼工場長の阪本憲作氏はそう自信を見せる。2011年に開催された「熊本サプライズ!グルメコンテスト」では、潤生麺を使用した「ぶっかけうどん」が優勝している。

 同社の強みは麺の製法だが、商品開発力の高さにも定評がある。阪本専務は建築デザインの経験を生かし、PB(プライベートブランド)商品の制作の際には、パッケージやラベルなどの製造まで依頼を引き受けている。
 肥後そう川はこの商品開発力を生かし、地元熊本県の特産品を練りこんだ麺も製造している。例えば、道の駅七城メロンドームの「メロン素麺」は、熊本県産のメロン果肉を麺に練り込んでおり、メロンドームでも人気商品となっている。この他にもごぼうや柚子、にんじんなど熊本の特産品を練りこんだ素麺は200種を超える。野菜や果物と素麺が合うのか、という疑問を持つかもしれないが、独自の製法で素材の味を生かしつつ、素麺の味も壊さない絶妙なバランスで麺を製造。見た目も味も楽しめる商品を送り出している。約20種類の小麦を使い分け、より商品に合った麺を作ることができるのも、同社の魅力の1つだ。

 創業当時は製麺だけを行っていたが、完成品の美味しさをお客さんに実際に味わってもらいたいという思いから、食事処をオープン。食事処はそう川本店(上益城郡御船町)と県庁通り店(熊本市中央区)の2店舗を出店し、グルメコンテストで優勝した「ぶっかけうどん」や種々のオリジナルメニューを食べることができる。

優勝した「ぶっかけうどん」

 順調に事業を進めているように思える同社も、熊本地震とその後の6月の大雨では多大な被害を受けた。「もう店をたたむしかないと思いました」。当時を思い出し、阪本専務は語る。工場の天井はほぼ落ち、床は一面土砂で埋め尽くされた。商品も約500万円分が水没。工場を修理してからも水が出ず、麺が作れない状況だった。
 それでも何とか復帰を果たした同社。地震で学んだこともあるという。「熊本復興支援イベントということで、東京の小田急百貨店さんの前で2週間ほど出店しました。リピート率も高く、たくさんの方に買っていただきました。温かい言葉もたくさんかけてもらい、非常に励みになりました。地震以前は、当社の通販や直売店などに買いにくる“肥後そう川の麺を買いたいお客様”にしか販売していませんでした。しかし、復興イベントなどを経験し、“これからは外に売りに出る動きが必要だ”と気付かされました。そして外で売るにはそれなりの“見た目”も重要になる。初めて商品を見る人にも手に取ってもらえるようなパッケージの試行錯誤を重ね、現在のかたちがあります」(阪本専務)。
 「何ごともプラスの志向が大切です。私の友人・知人にも震災で被害を受け、亡くなった方がいます。それでも復興復帰のためには、前を向かなければならない。復興支援の動きのなかで、新たに生まれた繋がりもあります。その繋がりを生かし、広げることで熊本全体が盛り上がっていければ思います。熊本県にある我が社の、熊本県産の小麦を使い、熊本の特産品を練り込んだ麺を、1人でも多くの方に食べてもらうことが、熊本復興支援にも繋がると考えています」震災で犠牲となった方々の命を無駄にしないためにも、自分たちが頑張らなければならない――阪本専務は力強く語る。

【中尾 眞幸】

COMPANY INFORMATION
(有)肥後そう川
代表:阪本 憲一
本社:熊本県上益城郡甲佐町大字早川2046-1
直売店・食事処:(本店)熊本県上益城郡御船町辺田見1670-1
        (県庁通り店)熊本県熊本市中央区水前寺6-27-20
電話:096-234-0015
URL: http://www.sougawa.com/

 

関連キーワード

関連記事