2024年11月13日( 水 )

「サロン幸福亭ぐるり」10周年~誕生秘話・激闘編(前)

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大さんのシニアリポート第55回

 「サロン幸福亭ぐるり」(以下「ぐるり」)が今年で10年目を迎え、先日、ささやかなパーティを開いた。当日は第一部に、「ぐるり」のオープンから有形無形にご支援を賜った市長、県議(公用にて不参加)、市議、社会福祉協議会、ボランティア団体の代表、そして葬儀社(葬儀のアドバイス)など。第二部に、一般の入亭者を招待した。とくに第二部には、アコーディオンとピアノの伴奏による「歌声喫茶”ぐるり”」を開催。実に40人を超す入亭者で賑わった。「ぐるり」の10年を顧みる。

10周年を報じた『ぐるりのこと』

 「ぐるり」(前身を「幸福亭」)は、平成20(2008)年8月13日、県営団地集会所の和室でオープンした。来亭者2名。スタッフ2名。予想外の出来事がオープンのきっかけとなった。その3年前の夏、団地内で2件の孤独死があった。自治会の役員だった私は、会長に「問題あり」と進言したが、会長は「役所と坊主の問題」と取り合わない。義憤に駆られ上梓したのが『団地が死んでいく』(平凡社新書)である。打ち上げの席上、担当編集者が、「全国的なジャーナリストもいいが、現場のジャーナリストもいいものですよ」と絡んできた。真意を問うと、「口先だけじゃなく、自分でも居場所を開いたらどうですか」と言う。すかさず「やってやろうじゃないか!」と宣言。これだけのやりとりで「ぐるり」が誕生したのである。

 「ぐるり」のコンセプトは「孤独死者をださない」の一点。だが、怪しげな組織ゆえに団地内から不審の目で見られ、意趣返しを様々な場面で受けることになった。広報誌『結通信』(のちの『ぐるりのこと』)の創刊号をポスティング後、何ものかによって郵便受けから回収され、半分破棄された状態で見つかった。組織の名称を記したのぼりが盗難に遭う。きわめつけは、代表(当時、私は亭主)の玄関扉に灯油をかけられたことだろう。見せしめにしては度が過ぎる。さらに、民生委員から呼び出しを受け、「『結通信』に書いてある『見守り』は、私たちの仕事です。余計なことをしないでください」と責められた。公的・私的を含め、セーフティネットは多い方がいいと思って書いたのだが理解していただけなかった。目障りな存在と思われていたのである。

吊し飾り体験教室

 手探りの運営がつづいた。自分と組織を守るために本意ではないが、大家である県住宅課、行政のトップに立つ知事、居住する行政区の市長、県議と接触することにした。孤独死が問題視されはじめた時期で、全員から励ましの言葉をいただいた。さらに、中身より存在の認識を最優先させることにしたため、何でも手がけた。開催日は毎週水曜(後に月曜)。月4回開催のうち、1回は季節を感じるイベント(酒が飲める会合)を設けた。1月「旧正月」、2月「節分」、3月「ひな祭り」、4月「お花見」、5月「端午の節句」、6月「あじさい祭り」、7月「七夕」、8月「団地夏祭り」、9月「お月見」、10月「芋煮会」(私が山形出身のため)、11月のみ流動的、12月「忘年会」。すべてに手作り料理と酒持参で宴会とした。各回、30人から40人の来亭者で賑わった。

 残りの3回も必ず催し物を開催した。各種「出前講座」「自主講座・講演会」「ワークショップ」「映画会」「読書会」「生演奏会」「囲碁将棋」「バザー」「体験ツアー」など。とくに「出前講座」では、認知症、介護予防教室、無料低額診療制度、オレオレ詐欺、死の淵から生還した人の体験談、最新見守り器機の紹介など。ワークショップでは、「籐製品制作教室」「手打ちうどん体験教室」「高齢者のための化粧教室」など。思いつくことは何でも挑戦した。そのすべてを私が主導した。

 自主講演会には、第1回、丹直秀氏(さわやか福祉財団理事)の『地域ネットワークの作り方』、第2回、中沢卓実氏(千葉県松戸市常盤平団地自治会長)の『孤独死からの回避』、第3回、足立己幸氏(女子栄養大学名誉教授)の『高齢者の孤食について』。イベント開催時にはポスターを作り掲示。一度でも来亭した住民には、簡単な手紙を書いて投函した。毎回120通余。内心「ラブレター」と呼んでいたが、しつこくて迷惑だと感じた住民もいたと思われる。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

 
(54・後)
(55・後)

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