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完全廃棄されかけた市民の歴史的財産
現在、主要機能をシティプラザに移設し、昨年7月に閉館した旧・久留米市民会館の取り壊しが行われている。それに際し、大ホールの垂れ幕である緞帳(どんちょう)が破棄処分されることになった。この緞帳は久留米市出身で28歳という若さで亡くなった天才画家・青木繁氏の代表作品「海の幸」をモチーフに作られ、1969年の開業時に当時の金額で1,500万円、1,500人もの職人が約10カ月の制作期間をかけて作成したものとして知られている。
久留米市は今年5月、この緞帳の破棄処分を決定。市は2013年の専門業者の調査結果をもとに破棄処分に至った。「すでに施設の電気設備が使えない状況であることに加え、安全に取り外しできないこと、ノミやダニが繁殖していることから健康被害が予想されること」が破棄処分される理由だ。
その後、このニュースを見た東京都在住の松永洋子さんが撤去費用を負担するので譲ってほしいと市に依頼。松永さんは、青木繁氏の孫にあたり、青木氏と恋人の福田タネ氏の間に生まれた音楽家・福田蘭堂氏の娘。「海の幸」には松永さんの祖母にあたる福田タネ氏と思われる人物が描かれており、松永さんはこの貴重な緞帳の一部分(福田タネ氏の絵の部分)でも良いから譲って欲しいと懇願していた。
しかし、市は松永さんの願いを拒絶した。「安全衛生上および物理的な観点からお断りせざるを得なかった」(市民文化部文化振興課)という。
その後、事態が急変。松永さんのことを報道で知った、千葉市の建設会社の社員が、親族を通じて撤去を行った建設業者に直談判し、緞帳の福田タネさんの顔の部分だけを切り取らせてもらった。関係者によると、松永さんはとても感動し、涙を流したという。
記者は実際に切り取られた緞帳を確認したが、保存状態は良く、傷んでいるどころかかなりきれいだった印象を受けた。本当に、安全衛生上の問題はあったのだろうか。
この文化・歴史的にも貴重な緞帳を、なぜ、シティプラザに持っていけなかったのか。市は、前出の安全衛生上の問題のほか、サイズが合わないことなど理由として転用を不可としている。転用しないことありきで、理由を後付けにしているだけではないだろうか。青木繁「海の幸」の緞帳は、市民から長年親しまれており、市民の財産といっても過言ではない。保存を前提に、対応を考えるべきではなかったか。少なくとも、子孫にすら渡さず、廃棄するというのは最悪の対応である。文化・芸術上の価値を知ろうともしない職員のいる久留米市には暗雲が立ち込めている。
(了)
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