2024年11月28日( 木 )

ナイフの朝鮮半島・戦争パニックか、平和攻勢か(後)

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硬軟取り混ぜた北の外交戦術 次の一手は

 さて、問題は北朝鮮だ。
 前回のコラムでも述べたように、北朝鮮が「平和攻勢」に転じる可能性は低くない。強硬戦術と「平和」戦術を巧妙に組み合わせる。これが金日成以来の常套手段だ。
 私が毎日新聞ソウル特派員だった1992年12月31日、板門店で開かれた南北朝鮮首相会談連絡会議は、「南北非核化共同宣言」の採択で、劇的に合意した。翌年の元旦の新聞紙面は、この記事が一面トップを飾った。核兵器の製造・保有・使用の禁止、核燃料再処理施設・ウラン濃縮施設の非保有などを、宣言はうたった。このなかで1つでも北朝鮮が実行したことがあるのか。
 韓国はまんまと騙された。その後の核開発の歴史が、それを証明する。当時の北朝鮮は、社会主義圏の崩壊によって、ピンチに立たされていた。韓国は国際的にも上昇局面にあった。そこで、ひと芝居を演じたのである。窮地に立った北の独裁政権は、隣の家のネコを騙して、核開発の時間を稼いだのだ。

 いまも北朝鮮の経済はピンチ状況にあるが、軍事的には「核兵器の保有」によって、当時とは段違いの優位にある。しかし、スタンドプレイ的な「核強国の完成宣言」は、国内の経済状態がただならぬ情勢になってきたことを、示唆するものでもある。
 これまで報道例がなかった「軍需大会」の初報道も、国内需要が逼迫しているからだ。日本海沿岸で相次ぐ北朝鮮「漁船」の漂着も、その証拠の1つだ。最近の韓国情報筋は、北朝鮮首相の動向などに、神経を尖らせる。経済官僚の失脚情報は、北朝鮮の実情を知るための重要なメルクマールだからだ。

18年は「平和攻勢」か 平昌五輪出場もあり得る

 北朝鮮は平昌五輪に出場するか否か。その可能性は、現状では半々である、というしかない。朝鮮情勢の予測に当たっては、短期的な予測は禁物だ。北の独裁者の判断によって、ネコの目のように変わりうるからだ。

 しかし、ここでは大胆に推理したい。
 金王朝の戦略論に立てば、三台目の首領・金正恩は年明けにも「平和攻勢」に出る恐れがある。そのシグナルを注視したい。平和攻勢を「弱体化の表出」とみて、さらに締め上げを強めるか。あるいは南北朝船がふりまくバラ色の「民族の夢」に、日本国民も惑わされてしまうのか。ここが2018年の朝鮮情勢に臨む肝心カナメであろう。
 朝鮮半島をめぐる日本人の歴史の教訓は、「遠ざけて冷徹に観察せよ」である。朝鮮戦争パニック論が流行する現時点では、その「逆の事態」をも想定して、2018年のコリア情勢への対処に万全を期したい。朝鮮半島は依然として、「日本列島に突きつけられたナイフ」であるからだ。

(了)

<プロフィール>
shimokawa下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)を歴任。国民大学、檀国大学(ソウル)特別研究員。日本記者クラブ会員。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp

 
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