2024年11月24日( 日 )

地域包括ケアシステムはシンガポールに学べ!(前)

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大さんのシニアリポート第62回

 「地域包括ケアシステム(以下「ケアシステム」)」(重度の要介護者を地域で支える)がこの4月から本格稼働する。私の住む市でもようやくその全容がみえてきた。
 予想どおり最重要とされる第2層(地域のボランティア団体や各種NPOが地域に住む高齢者を支える)が地域包括支援センター(以下「包括」)に丸投げされた。丸投げしたのは市の福祉部。「包括」が中心となり、地域のボランティア団体などを指導することになる。
 そもそも「包括」は市福祉部からの委託業務であるため、行政の顔色ばかり気にする「忖度業務」となりやすい。肝心の地域住民が置き去りにされかねないという危惧をもつ。

 懇意にしている若い市議に、常日ごろから「高齢者問題」についてアドバイスしている。市議は年末の市議会で福祉部長に、「ケアシステムの第2層を包括に決めた理由」について問いただした。すべての答弁に「国のガイドラインに沿って……」という文言がついた。

 ガイドラインとは「政府や団体が指導方針として掲げる大まかな指針」(「スーパー大辞林」)である。「国のガイドラインに沿いながら」市独自の方法を模索し提言するという最重要の視点からはほど遠いものになった。山梨県北杜市や埼玉県和光市など、独自の方針を打ち出し注目を集める行政もあるのだが、その内容を真剣に精査した形跡がない。

 国の「稼働待ったなし宣言」に追いつめられた市が、3年間の猶予期間中にも「包括ありき」の姿勢を崩さなかった。この話を「さわやか福祉財団」(堀田力会長、清水肇子理事長)の丹直秀理事に伝えたところ、「えっ………」と電話の向こうで絶句された。
 堀田氏は介護保険制度を起案したとされる人物で、84歳の現在も「ケアシステムの充実と実践」という命題を抱えて東奔西走する。「ケアシステムの命は第2層」を掲げる。

 私が住む市でも2年前、「生活支援体制整備事業」というテーマで、清水理事長が講演。「第2層の重要さ」を力説された。第2層を地域のボランティア団体やNPOに委託することで地域にあるさまざまな問題が掘り起こされ、解決に向けて行動することにより、地域そのものが活性化する。この最も大切な問題から市は逃げた。

 「包括」の従来の仕事と「ケアシステム」の仕事内容は似て非なるものである。包括はケアシステムを包括の仕事として一括してあたるだろう。地域でおきている問題を、これまでどおり秘匿権と個人情報保護法を楯に、住民への情報開示には否定的な態度をとるだろう。住民全体の問題として考え、情報を共有するという難問だが最も重要な部分をネグレクトすることになるだろう。

 興味深い記事を読んだ。「朝日新聞グローブ 2018年1月7日号」。「100歳までの人生設計」という特集記事に、シンガポールの実情が報告されている。特徴的なことが「生涯働くのが幸せ」という小見出しに現れている。

 日本を遙かに上回るスピードで超高齢者社会を迎えているのがシンガポール。そこには日本のように「先行き不安と諦め」という概念はない。「政府に頼らず、働くことこそ幸せという『教え』が染みわたっていた」と記者は書く。

 「東部地区にある大規模スーパー『NTUCフェアプライス』では、300店舗で働く約1万人の半数が50歳以上だ。60歳以上も2割強。最高齢は『82歳の薬剤師』だ。『お年寄りは経験豊富で接客向き。高齢者雇用を率先して進めていく』という」。

 「高齢者の就労を押し進める背景には、厳しい現実がある。2016年には12%だった65歳以上の人口は、30年には24%に倍増する予測。日本ですら22年を要したプロセスを14年で突き進み、50年には3人に1人が高齢者になるという。出生率は1.2と世界最低レベルで、積極的に移民受け入れにも限界がある八方ふさがりのなかで国が選んだのが『働き続ける社会』だった」。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

 
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