右翼・総会屋・暴力団の呪縛~神戸製鋼所(後)
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2017年10月31日、(株)神戸製鋼所は神戸製鉄所の高炉を停止した。58年10カ月にわたって鉄をつくり続け、同社を鉄鋼大手の一角に飛躍させた。1995年の阪神淡路大震災で被災したが、2カ月半で復旧し「産業復興の象徴」とされた。しかし、検査データ改ざん問題で、会社の存亡の機に直面したとき、その役割を終えて、歴史の幕を閉じる。神戸製鋼にとって、栄光の象徴だった高炉の閉鎖は、有為転変を物語る出来事であった。
「命の保証がなければ話せない」反社勢力の重いくびき
児玉氏が示した調停案が「曽我野は辞めさせるが、辞め賃を払ってやれ」というもの。辞め賃をひねりだすために使われたのが、児玉氏の盟友である元広域暴力団東声会会長・町田久之氏の会社、東亜相互企業が所有する福島県那須白河高原の土地だった。
竹森久朝著『見えざる政府―児玉誉士夫とその黒の人脈』(白石書店)によると、東亜相互企業が、この土地を曽我野氏の親類の会社に売り、それを神鋼が買い上げ、3億円の利ザヤを捻出する方法が採られた。神鋼は5億円の土地を32億円で買い上げた。
東京地検特捜部は、神鋼の内紛につけ込んだ悪質な恐喝事件とみて、神鋼東京本社の総務部長を参考人として事情聴取を求めた。
〈その総務部長氏が「警視庁を一歩出たら、体に穴が空くかもしれない。生命の保証がないかぎり、真相を語ることはできない」と証言を拒否した〉(前出の『見えざる政府』)。
歴代社長は総会屋担当・総務部出身でたらい回しに
この事件後、総会屋の木島力也氏が神鋼への影響力を強めた。神鋼所有の牧場を手に入れ、名馬ハイセイコーの馬主として知られるようになる。ハイセイコーの「セイコー」は神戸製鋼の「製鋼」から採ったものだと信じられている。神鋼の総会を仕切る木島氏が神鋼本社を訪れると、行きも帰りも、社員は廊下に整列して、最敬礼させられたという。
経営上の大きな変化は、技術屋がトップの椅子に座るのが常だった神鋼で総務部出身の社長が続くようになったことだ。
児玉氏を社長派に引っ張り込むことに重要な役割をはたした人物がいる。当時、総務部長の鈴木博章氏である。「児玉と握手して、社長の座を手に入れた」と言われた。以来、亀高素吉氏、熊本昌弘氏、水越浩士氏の歴代社長は、総会屋の窓口である総務部長や総務担当役員を経てトップに昇り詰めた。総会屋対策が重要な経営課題になったからだ。
99年、総会屋・奧田一男氏への利益供与事件で、総会屋対策を仕切っていた相談役の亀高素吉氏が辞任。2009年の地方議員に対する選挙資金肩代わり事件で、会長の水越浩士氏と、社長の犬伏泰夫氏が引責辞任した。
総務部が社長ポストに就く登竜門になり、総務担当者で社長の椅子をたらい回しにした。技術者トップが長期にわたって不在だったことが、神鋼が低迷から抜け出せない原因、と指摘されてきた。
神鋼のアルミ・銅製品などの品質検査データの改ざん問題は、航空機、自動車、新幹線から軍需産業まで広範囲におよんだ。品質の高さを誇ってきた「メイド・イン・ジャパン」の信用を崩壊させる引き金を引いた。
神戸製鋼所は17年11月10日、検査データ改ざん問題をめぐる社内調査の報告書を公表した。改ざんの原因として、「閉鎖的な組織風土」などの問題点を明記し、経営陣が不正を把握していなかったことを「大きな問題」と指摘した。
しかし、不正を把握していなかったわけではないだろう。不正そのものが遺伝子として組織に刷り込まれていた。「魚は頭から腐る」ということわざがあるが、企業でも「組織は頭から腐る」。右翼・総会屋・暴力団の呪縛が、神鋼を腐らせた発生源であった。
(了)
【文・構成:森村 和男】<COMPANY INFORMATION>
(株)神戸製鋼所
代 表:川崎 博也
所在地:兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通2-2-4
創 業:1905年9月
資本金:2,509億円
売上高:(17/3連結)1兆6,958億円関連キーワード
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