2024年12月23日( 月 )

「251 棟が耐震強度不足」の東京都で放置される豊洲市場の安全性(前)

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(協)建築構造調査機構代表理事仲盛昭二

優先されるのは東京都のメンツ

 私が代表を務めている建築構造調査機構は、東京の豊洲市場の設計における、日建設計による構造計算の偽装に関して、東京都に是正措置命令を求める訴訟を提訴していたが3月30日、「原告の請求を却下する」という判決が届いた。

 昨年11月21日に東京地裁に提訴した段階で、福岡の人間が東京都の施設に関して是正勧告を求める法的資格を有していないことは理解していたが、日建設計による構造計算の偽装と、これを見逃した東京都を許せない気持ちからの行動であった。

 訴訟に踏み切る前、私は、豊洲市場の施設の構造計算の偽装、構造上の安全性について、東京都や日建設計、(一社)日本建築構造技術者協会などに質問を送っていたが、回答はなかった。週刊誌の取材に対して、東京都や日建設計はコメントを残しているが、建築知識のない記者を煙に巻く不誠実なコメントであった。

 東京地裁の判決は、構造の問題に触れていないし、東京都民以外には、提訴の資格がないという判断を示さざるを得ないということは理解できなくもない。訴状を受理して4カ月以上も結論を出せなかった裏には、東京都の立場を忖度せざるを得ない事情もあったのではないかと思われる。

 しかし、「東京都民以外には当事者としての資格がない」と切り捨てても良いものであろうか。危険に直面するのは、市場関係者だけではない。豊洲市場には飲食や物販の店舗が設けられ、見学もでき、多くの観光客が訪れるので、市場を訪れる観光客まで危険に直面する。現在の築地市場に、外国人も含めて大勢の観光客が押し寄せる盛況ぶりを見るにつけ、地震発生によって観光客にも被害がおよぶことを、東京都や裁判所は、どう考えているのであろうか。

 現在、築地市場で働いている方々の多くが、豊洲市場の土壌汚染や耐震性に不安を抱いていると聞く。それは当然である。毎日、危険と隣り合わせで仕事をすることなど、並みの神経では無理なことである。ましてや自分が注意して危険から逃れられるようなことではないのである。東京都は、今年10月の豊洲市場の開場を予定どおりに進めるであろうが、それは、東京都のメンツや都合だけが優先されるのであり、市場の労働者の生命など、微塵も顧みていないからである。

 東京地裁から判決が届いた3月30日、朝日新聞はネットで「都内251棟、深度6強で倒壊の危険」というニュースを報じた。

 1981年の法改正前の旧耐震基準で建てられた東京都内の大規模な商業ビルやマンションなどの計852棟について耐震診断をしたところ、約2割が震度6強以上の地震で倒壊・崩壊の危険性が高いことが都のまとめで明らかになった。危険性が「ある」を合わせると、全体の3割に上り、巨大地震に向けた対策が急務となっている。(朝日新聞ネット版3月30日配信

 東京五輪を2年後に控えた東京都にとって、耐震性が不足した建物の補強や建替えを推進し、国土強靭化計画に沿った、災害に強い都市づくりを目指すべきであることは、東京都民のみならず、国民の一致した意見だと思う。

(つづく)

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(後)

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