2024年11月28日( 木 )

激動する東アジア~メディアの優劣見極め、時代の底流を見よ!(後)

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 南北首脳会談に望む米国の基本方針を解説したのは、4月30日の産経新聞「正論」である。
 福井県立大学教授の島田洋一は、南北の2人が「祝杯を交わしている間も、北における核・化学・生物兵器の増産や、収容所での凄惨な虐待は続いている」と指摘した。

 米国の「リビア方式」とは何か――。
 (1)交渉主体は米中央情報局(CIA)であり、スピードが早い。(2)核のみならず、化学兵器、中距離ミサイルも廃棄対象。(3)テロの清算も同時に行う。(4)「見返り」は廃棄完了後である――という論点だ。
 社会学者の橋爪大三郎は毎日新聞書評欄(5月6日)で、米国は米朝首脳会談を前に、北朝鮮に「ハル・ノート」を突きつけたと書いた。とうてい北は呑めないだろうという推測だ。対米開戦した日本は敗れ、天皇を残して軍を解体させられた。終戦から72年後の現在は、どうなるか?

 金正恩が大連で習近平と再会談した事で、東アジア情勢はさらにわかりやすくなった。
 朝鮮戦争の休戦時との違いは、韓国現政権が中朝側に移動しつつあることだ。文在寅政権のウリナラ民族主義のなせる技である。昔、日本の大日本共栄圏。今、南北コリアの平和繁栄論。自画自賛の甘い幻想は、民族国家の自滅を招くというのが、歴史の教訓である。

 ベテラン記者の古森義久(毎日、産経を歴任)が、朝日新聞の「奇妙な特ダネ」を論評して「北朝鮮を喜ばせる朝日の『北朝鮮、核全廃』報道」と批判した。ネット「JBPRESS」(5月9日)で読める。
 朝日の問題記事(5月3日一面トップ)はリード部分で「北朝鮮が米国が求める手法による核の全面廃棄に応じる姿勢をみせている」と書いた。ところが記事の後段になると「北朝鮮は段階的に非核化を進めるたびに見返りを受け取りたい」と書いている。これでは、とても北が「米国方式」に応じたとはいえない。相矛盾したことを堂々と書き込んでいるのだ。この記事は、ソウル支局の牧野愛博記者の報道である。あたり外れが通弊になりがちな特ダネ志向の記者だ。

 東京で開かれた日中韓殊能会談の共同宣言は、字句調整が長引き、発表が深夜にずれ込んだ。
 共同宣言をきちんと解読したのは、翌朝のニュースまで時間的余裕があったNHKだ。日中韓の共同宣言では拉致問題に初めて言及されたことを紹介し、さらに「国連安保理決議の重要性」がわかる記事になっていた。「国連安保理決議に従った包括的な解決」という文言の背後に、「核や弾道ミサイルを完全で検証可能かつ不可逆的な方法で放棄する」などと明記された安保理決議があることを示しているのである。

 しかし、情勢がよく理解できず、無責任な社説を書く新聞社もある。
 たとえば、10日付の「沖縄タイムス」だ。見出しはなんと「日中韓首脳会談/圧力一辺倒から脱却を」である。これでは金正恩の言い草と変わらない。
 同様な言い方は、TVコメンターなどでも散見される。
 特徴的なのは、日米を批判し、中朝の動きを擁護する姿勢だ。この論調に反論するのは簡単だ。米国の対北強硬路線は、生物化学兵器を含めて、対北圧力重視の国連安保理決議にベースをおいているからだ。そのくびきから逃れようとしているのが、金正恩と擁護勢力であるということだ。
 時代変化の真相をしっかりと見定め、対処しなければならない。

(了)

<プロフィール>
shimokawa下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。

 
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