BYDがテスラを逆転、日本の自動車業界に与える衝撃

電気自動車 イメージ    アメリカの金融・経済・ビジネス専門チャンネルであるCNBCは1月2日、世界の自動車界を驚かすニュースを発表した。2025年、中国のBYD(比亜迪)が電気自動車(EV)の販売台数でついにアメリカのテスラを逆転し、世界トップに躍り出たという。BYDは前年比28%増の226万台を販売した一方、テスラは前年比9%減の164万台にとどまった。

 これを聞いて、14年前のある事象を思い出した。

 2011年、テスラのトップであるマスク氏は、連続走行距離600kmというフラッグシップのEVセダン「Model S」を売り出した。一方で中国のBYDは、電池メーカーから転身したばかりの「新米」に過ぎなかった。マスク氏は当時、自信満々で、BYDは単なる「追随者」に過ぎず、クルマは「全然大したことない」と見ていた。しかしBYDは手をこまねかず、電池を発端にして安全かつ高性能な「ブレードバッテリー」を開発した上、車を省エネでエコなものにするハイブリッドシステム「DM-i」を生み出した。

BYDの販売台数が150%以上増

 その結果どうなったか。2025年、BYDはEVの販売台数が150%以上の増加でテスラを上回ったほか、車種も安値の小型車から高級SUVまで勢ぞろいし、とりわけヨーロッパや中南米、中東など新興市場で極めて好調となった。

 一方のテスラは2025年、前年に続いて販売台数が落ち込んだ。その理由は何か。実は極めて単純で、ラインナップが古くなったからであり、Model3やModel Yがいまだに主力となっているなか、ライバルが急進してきたのである。また、アメリカで2025年9月にEVへの補助金支給が終了し、ヨーロッパでマスク氏の政治問題への発言が論議を呼び、ブランドイメージが悪化した。マスク氏は今、「無人運転タクシー」や人型ロボットに期待を寄せているが、これは単にコンセプトに過ぎない。BYDの台頭は、世界のEV市場が「アメリカ主導」から「中国の速さ」へと切り替わっていることの表れである。

 日本の自動車産業は、テスラとBYDの「首位交代」で一体どのような影響を受けるのか。

 影響は一見、少ないように見える。日本ではEV市場自体が小さく、2024年は乗用車販売台数372万台のうちEVはわずか1.6%であった。日本はいち早くEVを手がけており、1990年代に日産やトヨタなどが生産や販売を始めている。しかし当時はバッテリーの充電時間が長く、連続走行距離も250km程度だったことから、日本で電気自動車は「高齢女性がスーパーへ買い物に行く時に乗るもの」という固定観念があった。

 よって日本では、中国で大々的にEVが普及し始めたなかでも引き続きハイブリッドカー(HEV)が人気であった。日本自動車工業会が取りまとめた2025年の新車販売台数の種別割合を見ると、HEVが全体の53.8%、燃料車が43.4%で、EVはたったの2.8%であった。しかし中国式の「新エネルギー自動車」という概念でいえば56.6%(中国では2025年10月時点で51.6%)となる。ただ日本ではその大部分が、EVではなくHEVなのだ。日本は雪が多く、山地が多いので、冬場の寒冷地や雪道の走行を考えるとEVは不向きであり、HEVのほうが有利だからだ。

 BYDもテスラもすでに日本に進出しているが、これら2社の販売台数は合わせてせいぜい1万台程度である。2024年、BYDの日本での販売数はわずか2,223台、一方のテスラはおよそ7,000台であった。

 BYDは2025年に日本で新車を出したが、販売数は62%増の3,870台だった。

 よって、テスラがトップだろうとBYDが逆転しようと、日本では両者のEV販売台数は無視できる程度なので、市場を脅かすことはない。

 ただ、世界に目を向けると、BYDの逆転は水面下で勢いがあることを示し、日本の自動車メーカーの土台をひそかに揺るがすものだ。まず、EVが世界で急速に普及して日本の 「複数路線」戦略が試練を迎えそうである。この年末にトヨタ自動車をリタイヤした元整備士に出会い、中日両国の自動車産業について語り合った際、「日本勢はかつて、省エネや安全性をバックにアメリカの大手に勝った。今、中国勢がEVやデジタル化を手段に我々と同じ道をたどっている」としみじみ話していた。

BYDとテスラの日本販売台数は1万台程度

 サプライチェーンや革新といった面ではより影響が深い。日本は自動車部品に強いが、EVの時代ではバッテリーが核心となる。BYDはバッテリーが自社製でコストが20~30%安い。日本の自動車メーカーは、パナソニックなどのバッテリーをもつがコア材料は中国頼みである。中国は2025年、世界のEVバッテリー市場の60%以上を占めており、日本は投資を伸ばさないと技術面で後れを取ってしまう。BYDの海外進出は日本の自動車メーカーにとって厄介だ。BYDを筆頭に中国のEVが今、東南アジアで日本のシェアを奪おうとしているのだ。

 日本経済新聞などのまとめでは、2025年の自動車生産台数について、中国は前年比17%増となる約2,700万台、一方の日本はほぼ前年並みのおよそ2,500万台という。中国が初めて日本を逆転し、世界トップに躍り出たのである。また、EVの開発が遅れている日本勢は、中国での販売台数が右肩下がりである。2018年、日系ブランド乗用車の販売台数は444万台、市場シェアは18.7%であった。それが2025年にはシェアが9.8%まで後退し、上半期の販売台数は143万台、年間では286万台前後と見られている。

 トヨタの豊田章男会長は、「電動化一辺倒はいけないが、適応しなくてはいけない」と繰り返し強調している。しかしBYDの逆転劇は、あるいは日本の自動車メーカーにおける「促進剤」となるかもしれない。楽観的に言えば、日本の製造工程や品質はEVでも生かせるだろう。トヨタやホンダなどは全固体電池の技術を十分に備えており、2027年に本格導入の見込みである。政府が補助金策を導入して充電所を各地に設ければ、2.8%というEVのシェアも一気に10%以上に達する。悲観的に言えば、このまま「守勢」となれば海外市場が一段と中国勢に奪われるだろう。

 それを象徴しているのがタイで、中国の自動車メーカーが今、日本勢のシェアを削っている。

 タイでは、日系車(トヨタ、ホンダ、いすゞなど)が長らく90%以上の市場シェアを保っている。盤石な地位で価格もかなり強気であり、常に割り増し値段とするケースもある。

 しかし中国のEVが低価格路線を歩むなか、これまで「値下げなし」だった日系車も構えを捨て、高額のキャッシュバック(最高で10~15万タイバーツ、日本円で50~75万円に相当)や金利0%ローンといった策を打ち出している。

 一方の中国勢は、「価格+スペック」という圧倒的な切り札をもつ。BYDをはじめとする各社がタイで主力車種(ATTO 3など)を繰り返し値引きしており、その幅は20%前後にも達する。これで新車販売台数は急増したものの、中古車の価値が落ち込んでおり、購入済みの人たちから不満の声も漏れ始めている。タイでは2024年、BYDや広汽埃安など中国の各社が相次ぎ工場を操業させた。タイ政府は2026年から各自動車メーカーに対し、補助金支給の条件として「1:2の割合で現地生産」(輸入車1台につき現地で2台を生産)を義務付けたため、中国勢も「現地定着」を余儀なくされている。

 中国各社による安値攻勢が続くタイで、スズキやスバルが現地での生産を終了すると発表した。

 しかし、日本の自動車メーカーはかねてから地道な取り組みをしており、市場拡大が一番の目標ではなく「利益」を求めることを一番の経営方針としており、よって安全かつ控えめな経営をしていることに着目しなくてはいけない。2025年の世界の販売台数を見ると、BYDは460万台(うち海外で100万台)、トヨタは前年比約6%増の1,040万台以上(うち海外がおよそ880万台)だった。ただ2024年の純利益を見ると、トヨタはBYDの6倍であり、中国の大手18社を全部合わせてもトヨタの70%にとどまる。すなわち、日本の自動車メーカーは販売数もさることながら、お金を稼ぐことが大筋なのである。

 中国の自動車メーカーはどこも「1に市場シェア、2にお金」という成長路線を描くが、これでは競争過多に陥りやすい。よって中国勢からすれば、いかにして「量」から「質」へ転換するかが今後の現実的な課題である。


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