2024年11月29日( 金 )

支持率5割台に急落の文在寅政権 対日強硬政策もトーンダウン(前)

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 韓国の文在寅大統領の「8・15演説」は昨年に比べ、対日強硬姿勢が薄らいだ。中国の対日柔軟姿勢に誘導されるように、トーンダウンしてきたのである。年明け以来続いてきた南北融和ムードは、シンガポールでの米朝首脳会談で米朝間の緊張が緩和されると、むしろ停滞気味の傾向にある。3回目を迎える文在寅・金正恩の南北首脳会談も、「9月平壌開催」という大まかな合意を見ただけで、南北関係の進展は相変わらず北朝鮮の出方次第という状況だ。

「光復節演説」の変化

▲失業者の増加が政権支持率に影響
 (写真は首都ソウル)

 ソウルも平壌も今夏は酷暑だった。米中間選挙が終わる11月以降は、トランプ政権が再び対北強硬政策に転ずる可能性が高い。文政権に対する支持率は5割台に急落してきた。足元から経済不安が忍び寄ってきたのである。

 文大統領は昨年の「光復節演説」では、日本との歴史問題に関連して、徴用工問題と慰安婦問題を同列に並べて語り、日本の指導者に「勇気ある姿勢」を求めた。しかし今年の演説では、日韓の歴史問題に関する言及がなかった。これは意外なほどのトーンダウンである。

 昨年の演説が日本側から強い批判を受けたのと比べると、まことに対照的だ。この背景には日中関係が急速に改善されつつある周辺環境の変化がある。慰安婦問題をめぐる中国での会議が延期されるなど、最近の中国政府は米トランプ政権の強硬策に対応する意味でも、対日柔軟政策に変化してきた。

 安倍政権の3期目への突入が確実視されるなかで、中国を始めとした対日けん制国家も、軌道修正を迫られつつあるのだ。

 文在寅大統領の「光復節演説」には、3つのメッセージがあった。
 女性の独立運動を振り返り、論争を呼び起こした大韓民国の建国時期には触れず、南北米関係のなかで「主人意識」を強調して、終戦宣言に言及したことである。

 韓国憲法が上海臨時政府から「法の正統」を継承するとの観点から、1919年4月13日の臨時政府樹立日を「建国日」とみるべきだというのが、文大統領ら進歩派(左派)陣営の立場だ。文大統領は昨年の「光復節演説」では「2019年は大韓民国の建国と臨時政府樹立100周年を迎える年」と述べた。

 保守陣営は国家の3要素「国民・領土・主権」を全部備えた李承晩政府の樹立を「建国」としてみている。朴槿恵前大統領は2016年の「光復節演説」で「光復71周年、建国68周年」と言及した。

 今年の演説で文大統領は「きょうは光復73周年であり、大韓民国政府樹立70周年を迎える非常に意味深くてうれしい日」と述べ、「建国」という言葉を使わなかった。

 文大統領は「女性たちは家父長制や社会・経済的不平等で、二重三重の差別を受けながらも、不屈の意志で独立運動に飛び込んだ」と述べた。植民地時代の「抗日闘争」の史実を個別具体的に言及するのは、文大統領の十八番に近い。とくに「女性の抗日」を浮上させるのは、進歩派らしいスタンスでもある。

(つづく)

<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)

1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。

(後)

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