2024年12月21日( 土 )

なぜ、文科省は自発的「植民地化」に邁進するのか!(1)

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国際教育総合文化研究所 所長 寺島 隆吉 氏
朝日大学経営学部 教授 寺島美紀子 氏

 いま小学校、中学校・高校、大学まで「英語教育」の世界が大きく揺れている。この問題の根が深いのは、学校教育という領域を超えて、将来の日本の政治・経済・社会に直接的に大きな影響を与える点だ。現在文科省の進める英語教育政策に関して「日本はアメリカの植民地に自発的に邁進している」と唱える識者が多くなってきた。そこには、どんな見えない力が働いているのか。日本の若者・子どもたちの未来は本当に大丈夫なのか。
 この問題について、『英語教育原論―英語教師 3つの危険、3つの仕事』『英語教育が亡びるとき―「英語で授業」のイデオロギー』『英語で大学が亡びるとき―「英語力=グローバル人材」というイデオロギー』などの著書で強い警告を発し、大きな反響を呼び起こしてきた寺島隆吉国際教育総合文化研究所所長・元岐阜大学教育学部教授に話を聞いた。同席したのは、現役で英語を教える夫人の寺島美紀子朝日大学経営学部教授である。

英語の授業は「日本語を使わずに英語で行う」ことに決定

 ――いま小学校から大学まで、英語教育の世界が大きく揺れています。そのなかで、本日は大学の英語教育についていろいろとお聞きしたいと思います。その前にまずこの問題の全体構図を俯瞰していただけますか。

▲国際教育総合文化研究所 寺島 隆吉 所長

 寺島隆吉氏(以下、寺島) いま新たに3つの英語教育「改革」が進行しています。1つは「小学校での英語教育を3年生から開始し、5年生からの英語を教科化する」政策であり、もう1つは今までは高校だけで行われてきた「英語の授業は、日本語を使わずに英語で行う」という方針を中学校でもやるという新指導要領です。

 3つ目は「大学の入試改革」です。大学入試における共通テストの英語を民間業者のテストを受験させるという、「教育の民営化」政策です。これは教育産業を活性化させるかもしれませんが、教育現場は大混乱に陥るでしょう。

 まず小学校に英語教育を導入することに対しては、臨時教育審議会が「英語教育の開始時期についても検討するという第2次答申を出した当初(1986年)から激しい論争が行われてきました。しかし日本言語学会元会長・安井稔氏をはじめとして言語学・英語学・英語教育学を専門とする方々から、その教育効果について強い疑義が出され、その妥協策として文科省は「当面、小学校への英語導入は総合学習=国際理解教育の一環として行い、成績評価もしない。開始時期も5年生からとする」としたのです。

▲『英語教育原論――
 英語教師 3つの危険、3つの仕事』
 明石書店/2007年

 私が『英語教育原論』(2007年)を緊急出版して小学校英語を詳しく論じたのは、このような背景があったからです。ところが最近、事態は急展開し、2020年度から開始される新指導要領では「小学英語の開始は3年生からとし、5年生からは正式な教科として英語を教え、成績評価の対象とする」という指針が強行され、小学校教師の焦燥感・疲労感は高まる一方です。

 この小学校英語と並行して大きな論争を呼んだのが高校英語です。それは「高校英語の授業を、日本語を使わずに英語で行う」という新しい指導要領が出されたからです。これに対しても専門家から強い疑義が出され、私も『英語教育が亡びるとき』(2009年)で新指導要領の問題点を詳細に論じました。この本は現場の英語教師から「よくぞ言ってくれた」という大きな反響があり、あっというまに増刷になりました。その影響もあったのか、文科省も「日本語を使わない」は原則であり「なるべく英語で授業をしてほしい」というのがその趣旨だとして、ややトーンダウンしました。

 ところが、いつの間にか各地の教育委員会は、「英語で授業」は指導要領で決まっていることだからとして現場の英語教師に圧力をかけ続け、英語教師のなかには退職したり、潰瘍性大腸炎になるなどして病気休職(精神的疲労)をする方が後を絶ちません。最近でも、私の研究所の英語教員が、管理職から「日本語を使わないで授業をしているか。英語で授業をしていないのだったら法律違反だから、牢屋に入ってもらわにゃならん」と恫喝されたと聞きました。指導要領であろうとも一度文章化されてしまうと、こんな力をもつという好例ではないでしょうか。

(つづく)
【聞き手・文・構成:金木 亮憲】

<プロフィール>
寺島 隆吉 (てらしま・たかよし)

国際教育総合文化研究所所長。元岐阜大学教育学部教授。1944年生まれ。東京大学教養学部教養学科を卒業。石川県公立高校の英語教諭を経て岐阜大学教養部および教育学部に奉職。岐阜大学在職中にコロンビア大学、カリフォルニア大学バークリー校などの客員研究員。すべての英語学習者をアクティブにする驚異の「寺島メソッド」考案者。英語学、英語教授法などに関する専門書は数十冊におよぶ。また美紀子氏との共訳『アメリカンドリームの終わり―富と権力を集中させる10の原理』『衝突を超えて―9.11後の世界秩序』(日本図書館協会選定図書2003年度)をはじめとして多数の翻訳書がある。

<プロフィール>
寺島 美紀子 (てらしま・みきこ)

朝日大学経営学部教授。津田塾大学学芸学部国際関係論学科卒業。東京大学客員研究員、イーロンカレッジ客員研究員(アメリカ、ノースカロライナ州)を歴任。著書として『ロックで読むアメリカ‐翻訳ロック歌詞はこのままでよいか?』(近代文芸社)『Story Of  Songの授業』、『英語学力への挑戦‐走り出したら止まらない生徒たち』、『英語授業への挑戦‐見えない学力・見える学力・人間の発達』(以上、三友社出版)『英語「直読理解」への挑戦』(あすなろ社)、ほかにノーム・チョムスキーに関する共訳書など、隆吉氏との共著が多数ある。

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