2024年12月25日( 水 )

病態改善のための栄養・食事療法を研究し、機能性食品を未病対策に生かす(中)

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日本機能性食品医用学会 理事長 宇都宮 一典 氏

BMI基準値は見直す必要あり

▲策定する指標

 栄養・食事療法を行ううえでベースとなるのが「食事摂取基準」です。私は、厚労省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会」のメンバーとして、エネルギーや各栄養素の摂取量の基準づくりに携わっていますが、個人差に対応できる指標を策定することの難しさを痛感しています。

 中高年から70代前半まではメタボ予防で過剰摂取に注意しなければなりませんが、75歳を過ぎた後期高齢者世代になると低栄養によるフレイル(虚弱)を予防しなければなりません。年齢によって食事指導を変えることは簡単ですが、現実的には個人差があって、60代でもフレイルになっている人もいれば、75歳を過ぎてもメタボ予防に重点を置かなければならない人がいます。この見極めが難しいのです。

 私は糖尿病が専門ですので、糖尿病を例に挙げると、2型糖尿病は内臓脂肪型の肥満を背景としていますので、肥満の是正が必須条件となります。そのためには体重の適正化がポイントとなりますので、個々の患者さんの総エネルギー摂取量を設定し、体重を落とすことを目指すことになります。

 しかし、適正体重の前提となる総エネルギーの設定法に関して、科学的根拠を見出すことが難しいという問題があります。現在、日本糖尿病学会を始め、生活習慣病に関連するすべての学会が、「BMI 22」を標準体重としてエネルギーを設定していますが、これは1955年代の日本人のデータに基づいています。当時はBMIという考え方はありませんでしたが、「BMI 22」に相当する体格が最も長生きすると考えられていました。これを標準体重として、栄養所要量、そして食事療法における総エネルギー摂取量の設定の基点としてきました。すなわち、目指すべき体格としてきたのです。

 1955年代の成人の摂取エネルギーは2,000calを超え、炭水化物を70-80%摂っていましたが、糖尿病は今より少なく、糖尿病診断時のBMIは25を下回っていました。つまり当時の日本人は、同じような食生活をし、総じて痩せていたのです。ところが、そうした時代に決められた「BMI 22」に見直しをしないまま今日に至っているのです。時代の変遷とともに食生活が多様化し、欧米型の肥満が増え、現在の糖尿病発症時のBMI は25を超えています。

適正体重を個別化していく

 最近の死亡率とBMIの関係を見ると、死亡率の低いBMIには20~25と幅があります。22は絶対的な基準ではないのです。ですから、BMI20~25の間で、総エネルギー量に柔軟性をもたせてよい。しかし、難しい問題もあります。長年にわたって22を基準とした考え方でやってきましたので、これを外すには各学会のコンセンサスが必要です。診療ガイドラインを改訂しなければなりません。最も重要なことは、その幅のなかでどのように個別化を図るかです。

 従来は、これだけ摂りなさいといった指導をしてきましたが、食習慣が多様化した現在、このような方法は実効性がなくなってきました。個々の嗜好を尊重することも必要です。とくに高齢者の場合は、合併症予防より、健康寿命をいかに延ばすかが大きな治療目標となります。75歳以上になりますと、死亡率が低くなるBMIは25以上だと考えられています。このような医学的条件を加味しながら、その個人にとって望ましい体格、その維持に必要なエネルギーの設定が望まれます。

 栄養素の摂り方にも、同じことがいえます。腎臓に機能障害がある場合はタンパク質の制限が必要ですが、75歳以上になってもタンパク質制限を続けていくと、今度はサルコペニアのリスクが高まってきます。つまり、臓器別に見た学会の診療ガイドラインでは、同じ個人の指導内容に矛盾が出てきます。各学会の診療ガイドラインは特定の疾患を対象としているので、多臓器の障害をもった場合や高齢者に適応しようとすると、どうしても齟齬が生じてしまうのです。これをどう統合し、新たな方向性を見出していくのか、この点が今後の栄養学の大きな課題といえるでしょう。

 疾患や年齢などの属性を踏まえ、重症化を予防するための栄養処方の個別化を図ることは、総論としては正しいが、実際には容易なことではない。これを評価するパラメータの開発も必要です。今回の策定検討会では、そのことのメッセージとして「BMI 22」の記載をやめ、「幅がある」ことを記載する予定でいます。

(つづく)
【取材・文・構成:吉村 敏】

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