種子法廃止の恐怖~国民は巨大種子企業のモルモットに?(2)
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脅かされる安定供給、多様性の喪失
種子法廃止による懸念として、まず種子の価格高騰が挙げられる。今のところコメの種子の価格は1キロあたり600円弱。厳密な管理、手入れを必要とする種取り農家の苦労に値する対価は、現在でも十分とはいえない。近年は、コメの価格がどんどん下がり、種子農家の収入も減っている。高い生産技術をもつ農家が種取りを続けられるようにするには、公的な制度や予算などの下支えが不可欠である。
種子法廃止とほぼ同時に成立した「農業競争力強化支援法」には、次の記述がある。
「種子、その他の種苗について、民間事業者が行う技術開発及び新品種の育成その他の種苗の生産及び供給を促進するとともに、独立行政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進する」
ここでいう「民間事業者」とは、すでに10年前からコメの新しい品種に参入している三井化学アグロ「みつひかり」や日本モンサント「とねのめぐみ」、住友化学「つくばSD」、豊田通商「しきゆたか」などを指していると思われる。これらは各都道府県で推奨されてきた品種に比べ、5〜10倍高い。現在もコメの価格が生産費を下回る中、種子の価格が高騰すれば、コメの生産をあきらめる農家も増えるだろう。
政府は「種子の価格が上がっても、収入が増えるから問題ない」と説明しているが、すべての農家に収入増がもたらされる根拠はどこにあるのか。種子価格の高騰は早晩、消費者に跳ね返ってくる。
民間任せになれば当然、品質の低下も懸念される。前述したように、原種・原原種の栽培は手作業による工程が多く、農家の手に渡るまでには最低でも4年の歳月がかかる。気の遠くなるような仕事だ。利益優先の企業主体に、高い品質の維持が期待できるだろうか。
もう1つの懸念は、種子品種の多様性が失われることである。先に332種類のコメがつくられていることを紹介した。特定の地域でしか栽培されていない品種のコメは、地域振興の看板にもなってきた。それぞれの地域や気候に合った品種の種が供給され続けてきたのも、公的な支えがあったから。
民間企業がこれだけ多品種を維持する費用や手間を負担するとは思えない。利益を優先すれば、同じ品種を効率的に広めることになるはずである。
農業競争力強化支援法には、「既存の多数の銘柄を集約する」方向が示されているが、種子の多様性は、地域や文化の多様性にも直結する問題である。単一の種子が大量生産されるようになれば、病害虫の発生などで、一気に打撃を受ける危険性も高まる。気候変動が激しくなる中、被害をより大きくする危険性さえもたらしかねない。
さらなる懸念は、多国籍企業による影響が強まること。これまでの公共品種の種子が徐々に姿を消し、将来、多国籍企業の種子しか選べなくなる可能性もある。そうなれば、農家は企業が指定する通りの農業をせざるを得ず、多国籍企業が種子から食品の流通まですべてを握る社会へと変わるだろう。農家と消費者の関係は切り離され、産直や生協も存在意義を失ってしまうかもしれない。
農業競争力強化支援法には、「有利な条件を提示する農業生産関連事業者との取引を通じて、農業経営の改善に取り組む」というくだりがある。これは、農家が農協を通じた共販や共同購入から離れることを促している。2015年に安倍政権が出した農協改革案にあるJA全農の(株)化と関係するものであり、種子法廃止も多国籍企業のための政策であることを裏付ける。
先祖から受け継いだ種子は自然とともに育んだ公共財産。種子法はそうした遺伝資源を公共財産として守るという考えが基礎になっている。実は、米国やカナダでも、州立大学や州の農業試験場は法律で支えられ、公共品種の育成に重要な役割をはたしている。
(つづく)
<プロフィール>
高橋 清隆(たかはし・きよたか)
1964年新潟県生まれ。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。ローカル新聞記者、公益法人職員などを経て、2005年から反ジャーナリスト。『週刊金曜日』『ZAITEN』『月刊THEMIS(テーミス)』などに記事を掲載。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&Kプレス)、『亀井静香—最後の戦いだ。』(同)、『新聞に載らなかったトンデモ投稿』(パブラボ)。YouTubeで「高橋清隆のニュース解説」を配信中。関連記事
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