【BIS論壇№491】トランプ高関税とASEAN

 NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は7月24日の記事を紹介する。

日米関係 イメージ    トランプ大統領就任以来6カ月、同大統領が矢継ぎ早に打ち出す高関税政策は世界経済に混乱をもたらしつつある。日本は関税一律25%が15%と低減され、与党の交渉は一応成功したとの見方もあるが、いかがか。それでも鉄鋼、アルミには50%の関税は残ったままである。日本と同時期に、インドネシア、フィリピンも合意に達したとのことだ。しかし、両国とも米国からの輸入に関しては無関税にすることにしたという。

 そもそも第二次世界大戦は各国の関税合戦が1つの理由とみなされ、1945年に米国のブレトンウッズで戦後の世界経済構築にIMF、世界銀行、さらにGATT体制などが米国主導で実現され、戦後、長年世界経済の発展に貢献してきた。一方、95年にはWTO(世界貿易機関)も発足。低関税による世界経済、貿易の拡大が模索されてきた。それがトランプ第二次政権発足後、世界各国への高関税合戦が始まり、発展途上国にも甚大な影響を与えつつある。

 ASEAN(東南アジア諸国連合)などアジア新興国では関税が重荷となり、25年の経済成長は鈍化し、GDP(国内総生産)は前年比4.7%に下振れするとマニラに本部を有するADB(アジア開発銀行)は予測。トランプ政権による高関税政策はとくに東南アジアの成長の鈍化をもたらすと指摘。

 アジア新興国は中国、インド、ASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国10カ国を含む、46カ国・地域が対象である。ADBは東南アジアのGDP成長率を25年4.2%、26年4.3%に下方修正した。高関税の影響で輸出が伸びず、内需も鈍化すると予測している。

 中国は25年4.7%、26年4.3%と鈍化。中国の25年前半米国向け輸出は急減したが、ASEANなどほかの地域向け輸出は堅調だった。アジア域内ではインドが最も高い成長率で25年6.5%、26年6.7%と好調な経済発展を予測している。

 7月22日に日米で合意に達した条件は米国が日本に15%の「相互関税」を課し、さらに日本は5,500億ドル(約80兆円)を米国に投資するとするもので、米国はその利益の90%を受け取る。日本が自動車やトラック、コメなど農産物の市場開放をするとトランプ大統領はSNSに投稿している。

 『しかし2019年に結んだ日米貿易協定の水準から関税率を引き上げるのは米国だけ。コメの輸入拡大や米国への投資を約束するのは日本だけだ。米国が一方的に利益を得る合意であることは明らかだ。協定違反の高関税を突きつけたトランプ大統領の脅迫に屈し、一方的な譲歩を重ねたものだ。世界貿易機関(WTO)の原則である多国間協議を嫌い、立場の弱い貿易相手国の各個撃破を狙ったトランプ氏の術中に石破政権がはまった』(『赤旗』7月24日)と批判する見方もある。多角的視野からの検証が必要ではないかと思われる。


<プロフィール>
中川十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。

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