種子法廃止の恐怖~国民は巨大種子企業のモルモットに?(3)
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廃止の背景に米国の圧力
種子法廃止はなぜ、突如現れたのだろう。その背景に米国の圧力がある。
種子法廃止の問題をいち早く指摘した山田正彦元農水相は2015年、原中勝征・前日本医師会長らと国を相手取り、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉差止・違憲訴訟を提訴した。2018年1月の東京高裁判決で杉原則彦裁判長は損害賠償請求を棄却するとともに違憲確認を却下した。ただし、「種子法の廃止はTPP協定が背景にあることは否定できない」と認めた。
実際、2016年2月の署名時に交わした日米並行協議の交換文書には、次のように記されている。
「日本国政府は2020年までに外国からの対内直接投資残高を少なくとも倍増させることを目指す日本国政府の成長戦略に沿って…(略)…外国投資家その他利害関係者から意見及び提言を求め…(略)…規制改革会議の提言に従って必要な措置をとる」
このことについて山田氏は「これは独立国ではない」と憤慨している。規制改革会議で初めて種子法が民間の種子開発を阻害しているとの指摘がされたのは、2007年4月の地域活性化ワーキング・グループ会合。このときは農水省がきちんと反論し、種子法の重要性を訴えた。しかし、2016年10月の規制改革推進会議の農業ワーキング・グループ会合では「戦略物資である種子・種苗については、国は国家戦略・知財戦略として、民間活力を最大限に活用した開発・供給体制を構築する。そうした体制整備に資するため、地方公共団体中心のシステムで、民間の品種開発意欲を阻害している主要農作物種子法は廃止する」との提言がなされた。
かつて農業問題は、各方面の代表者や専門家から成る「農政審議会(現・食料・農業・農村政策審議会)」が在り方を検討した。農水省出身の篠原孝衆院議員は、「規制改革推進会議のメンバーには農政のプロが皆無です。推進会議のなかに設けられた「農業ワーキング・グループには多少専門家もいますが、例によって財界寄りの主張をする者ばかり」と嘆く。
米国は種子法廃止だけでなく、農業分野における包括的な規制改革を我が国に要求し続けている。「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく
日本国政府への米国政府要望書」(年次改革要望書)や「日米経済調和対話」といった事実上の内政干渉文書にも明記されてきた。その背後には、多国籍企業の存在がある。第2回の記事で2015年の農協改革案に触れたが、これは2014年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」をJAグループがのめるように一部修正したものである。JA全農の株式会社化で独占禁止法を外し、農産物や農薬、肥料などを売り込みたい多国籍企業を後押しすることと、380兆円の「農協マネー」強奪を手引きする狙いがある。JA共済の保有契約高は289兆円、JAバンクの貯金残高は91兆円に上る。
この「規制改革実施計画」は、その2週間前に提出された在日米国商工会議所(ACCJ)の意見書と酷似している。しかも、同文書は「こうした施策の実行のため、日本政府および規制改革会議と緊密に連携し、成功に向けてプロセス全体を通じて支援を行う準備を整えている」と告白している。
マスコミはこうした内政干渉文書の存在をまったく報じたことがない。その一方で、小泉進次郎氏が農業生産法人を訪ね「農家は農協から肥料、農薬などの農業資材を高く買わされている」と農協改革を主張する姿を全国のお茶の間に流してきた。農業経済学が専門の東京大学大学院教授の鈴木宣弘氏は、「全農の株式会社化は独禁法の適用や買収への道を開き、農協が企業に食い荒らされるという結果に終わります」と一蹴する。農業競争力強化支援法の国会審議でも参考人として出席し、「農業弱体化法案」と批判したが、報じたマスメディアはない。
(つづく)
<プロフィール>
高橋 清隆(たかはし・きよたか)
1964年新潟県生まれ。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。ローカル新聞記者、公益法人職員などを経て、2005年から反ジャーナリスト。『週刊金曜日』『ZAITEN』『月刊THEMIS(テーミス)』などに記事を掲載。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&Kプレス)、『亀井静香—最後の戦いだ。』(同)、『新聞に載らなかったトンデモ投稿』(パブラボ)。YouTubeで「高橋清隆のニュース解説」を配信中。関連記事
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