2024年12月27日( 金 )

アジア、世界を襲う水と食糧の危機~今こそ日本の出番!(3)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 中国やインドを中心にし、多くの農民たちが水不足による悲劇の主人公となっている。経済的に破綻し、自殺や身売りを余儀なくされている農家も急増しており、各地で大きな社会不安の原因となっているようだ。

 その一方で、アジアの発展途上国の間では国民の食生活に大きな変化が押し寄せ始めている。日本でも経験したように、食の欧米化が進むようになったのである。伝統的に米を中心とした食生活がアジアでは主流となっていたが、このところ急速にパンや肉を中心とする食文化へと変化してきている。
問題はこうした欧米の食生活を維持するために、はたまた小麦や牛肉、豚肉などの肉類を育てるにしても、大量の水が必要とされることなのである。今後、ますます大量の水がなければ、肉類の確保は難しくなるに違いない。アジアでも欧米文化が広まるなかで、大量の水を必要とする肉食文化が大手を振って広まりつつある。

 25億人に達すると予測されるアジアの人口が必要な食を確保するためには現在の2倍の食糧が必要とされる。そのためには、これまで以上に貴重な水資源を有効活用することが必要とされる。その切り札となるのがすでに述べたような日本の造水技術であり、節水技術といえるだろう。アジアのなかでもとくに人口増加の著しい中国とインドにおいては、海水の淡水化プラントや汚水の浄化施設などへの投資が「焦眉の急」となっている。

 見方を変えれば、これこそ「日本がアジアの救世主となる大きなチャンス」なのである。日本の水技術が今ほど求められている時はないといえるだろう。こうした水関連技術をどのようなかたちで世界の食糧問題の解決に生かすことができるかどうか。日本の存在感が試されているといえよう。東京で開催中の国際水協会の世界会議・展示会に世界中から参加者や見学人が押し寄せるのも当然であろう。

 ユネスコの調査によれば、世界で使われている水の70%は農業、とくに灌漑に使われているという。現実にはそれほど水を使わなくとも農業を営むことは十分可能である。なぜなら、伝統的に農作物はその土地の気候に適応したものが育っているからである。たとえ雨量が少なくても限られた水で育つ野菜や果物は数多く存在している。

 しかし、近年は生産高を増すために遺伝子組換え作物が普及するようになってきた。こうしたハイブリッド種から育つ作物は伝統的な地場の作物と比べ大量の水を必要としている。そのため世界各地で地下水を大量に汲み上げ灌漑用に使うケースが増えてきた。従来、川や湖、池、貯水池などの水で十分賄われていた農業用の水需要がそれだけでは不十分ということになり、大規模な地下水の利用が必要とされるようになってきた。

 こうした事態を重く見たユネスコでは地下水の過剰な汲み上げに対し警告を発している。しかし、そうした警告はこれまでのところ無視される一方である。地下水は人々にとって欠かせない水の供給分の4分の1程度を賄っている。これは世界共通の状況と言われている。

 ということは世界各地で地下水が大量に消費された結果、農業用の地下水が不足するのみならず、飲料用の水源地も失われ始めているのである。20世紀が石油をめぐる争いの世紀であったとすれば、21世紀はこのような水をめぐる争奪戦が営まれる時代と言っても過言ではないだろう。

 香港大学の地理学者デービッド・チャン氏によれば、「過去500年の間に8000回を超える戦争が発生したが、その原因は水不足が引き起こした水源地をめぐる争いという性格のものが圧倒的に多い」という。人類はこれまで限られた資源をめぐり紛争や対立を繰り返してきた。今後は水をめぐる争奪戦がますます激化するに違いない。すでに世界各地において、「ピーク・ウォーター」が過ぎており、自然の水循環だけでは世界の人々の水需要が賄えない時代に入っているからだ。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

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