2024年11月24日( 日 )

人工知能と経済の未来 2030年~来るべき雇用大崩壊時代を読む(中)

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駒澤大学経済学部准教授 井上 智洋 氏

第4次産業革命で取り残される?

 次は、人工知能と並んで最近注目を浴びている第4次産業革命について解説します。第4次産業革命というのは、AI 、IoT、ビッグデータによる産業構造の劇的な変化だと言われています。この3つの技術がセットになって、これから生産活動の高度オートメーション化を成し遂げていくのです。第4次産業革命がいつごろ起きるのかというと、2030年ごろではないかと思っています。

 先ほどの3つの技術の組み合わせですが、その仕組みは実空間からセンサーによってデータを収集して、ネットを経由して集められた多くのデータがビッグデータとなって、それをAIが解析して知識創造、つまり新しい知識を生み出すというものです。

 例を挙げると、最近、スマートウォッチやリストバンド型のヘルス器具を腕につけて、絶えず脈拍や血圧を測っている人がいます。そのデータを自分の健康管理のために使うのですが、さらに大量のデータを収集してAIで解析したら、どういう人がガンになりやすいのか、どういう人が糖尿病になりやすいのかといった、医療に関する新しい知識が生み出せるでしょう。また、自動運転車で混んでいる方面に走っている車を空いている方にうまく誘導すれば、渋滞を緩和できるようになります。そうやって街全体が賢くなって、渋滞緩和ができるような街をスマートシティと呼んでいます。

 強調したいのは、各産業革命期に汎用目的の技術をいち早く導入して普及させた国が、覇権を握ってきたという歴史上の事実です。最初の覇権国家はイギリス、第二次産業革命はアメリカ、ドイツ、第三次産業革命はアメリカ、第4次産業革命は、はこのままいくとまたアメリカになりそうです。しかし、ドイツの取り組みが少し早いということと、中国が科学技術力の面でものすごい追い上げを図っています。新しい技術の導入も早く、中国はかなり脅威であるといえます。日本はこのままいくと覇権どころではなくて、世界の先進的な部分から置いていかれてしまうという危機感を、私自身ももっています。

ITの進歩で事務職が余る

 AIと呼べない段階のITだと事務作業ぐらいしかできませんが、ITがさらに賢くなると頭脳労働がAI化でき、AIをロボットに組み込むことで肉体労働をロボット化することができるようになります。それから、車や工場、さらに町をAIでコントロールする。それはスマート化と呼ばれることが多く、それぞれスマートカー、スマートハウス、スマートファクトリー、スマートシティと呼ばれています。こういったものがこれからどんどん出てくるということです。

 ここからは第4次産業革命に向けて、人工知能、AIがどのように進歩するかについてお話ししたいと思います。15年ごろから日本ではフィンテックが普及し始めました。フィンテックはファイナンスとテクノロジーを組み合わせた造語です。一言でいうと、金融のIT化ということになると思います。最近は、金融や事務手続きや事務処理のIT化が進み、これだけ人手不足時代だと言われていながら17年の一般事務有効求人倍率が0.35倍と、事務職は人手が余っています。

 一方、トラック運転手はすごく人手が不足しています。自動運転のトラックが出てくるのは、早くても25年ぐらいで、自動運転のトラックが世の中に普及するには30年ぐらいまでかかるでしょうから、それまでは、あまり人手不足の状況は改善しないと思います。

(つづく)
【文・構成:宇野 秀史】

<プロフィール>
井上 智洋(いのうえ・ともひろ)

駒澤大学経済学部准教授。慶應義塾大学環境情報学部卒業。早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論。人工知能と経済学の関係を研究するパイオニアとして、学会での発表や政府の研究会などで幅広く発信。AI社会論研究会の共同発起人を務める。著書として、『人工知能と経済の未来』(文春新書)、『ヘリコプターマネー』(日本経済新聞出版社)、『新しいJavaの教科書』(ソフトバンククリエイティブ)、『人工超知能』(秀和システム)、共著に『リーディングス 政治経済学への数理的アプローチ』(勁草書房)、『人工知能は資本主義を終焉させるか』(PHP新書)など多数。

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