品種改良から遺伝子組み換え、そして究極の技術「ゲノム編集」へ(前)
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なんとなく敬遠される遺伝子組み換え食品(GMO)。ほとんどの方は、GMO食品と天然食品が並んでいたら天然食品を手に取るだろう。では仮に、「これから生まれてくるあなたの子は、すばらしい知能と健康な肉体をもつ子がいいか、あなたと同じ平凡な子がいいか」と聞かれたら、どう答えるだろうか。この選択は、すでに現実的なものとして我々の社会に迫っている。最新の遺伝子技術「ゲノム編集」は、「デザイナーベビー」の誕生を可能にする。
「安全」なのに選ばれないGMO食品
「大豆(遺伝子組み換えでない)」―。スーパーの食品売り場に並んでいる豆腐や納豆の品質表示を見ると、すべての商品にこう記されている。現在この表示は当たり前のように見かけるが、これは2000年に農林水産省が定めた基準によるものだ。農水省は「現実に流通し、利用されている遺伝子組換え農産物は、政府により安全性の確認が行われたもの」としたうえで、遺伝子組み換えが行われた農作物(GMO=Genetically Modified Organism)を含むかどうかを表示するように定めている。対象とされている農作物は大豆、枝豆、トウモロコシ、ジャガイモなど。遺伝子組み換え農産物が含まれている製品には「○○○遺伝子組換え」「○○○遺伝子組換えのものを混合」などの表記を行う必要があるが、実際には店頭にGMOを原料にした食品が並ぶことはまずない。繰り返しになるが、農水省は「遺伝子組み換え農産物は安全」だ、という立場。にもかかわらず、こうして「遺伝子組み換えでない」表示を義務付けているのは、消費者が「遺伝子組み換え」という概念そのものに不安を覚えているからだ。
遺伝子組み換えは品種改良と変わらない
「メンデルの法則」の発見以来、生物のかたちや大きさなどの特徴を決定づける遺伝子をどうコントロールするかは、科学の歴史のなかで大きなテーマとなった。もちろん、メンデルの研究が行われた19世紀よりはるか以前から、人類は野生の植物や生物を改変し続けてきた。家畜や作物の交配による品種改良は、原理的にはGMO作物とほとんど変わらない。また20世紀に入ってからは、放射線を照射して作物の種や苗に変異を起こさせる「放射線育種」が行われた。放射線育種によって登場したゴールド二十世紀梨は、従来の二十世紀梨よりも病気に強いことで知られている。
遺伝子組み換えは、70年代に研究が始まった技術だ。ある種のバクテリアは、植物に感染すると自身がもっている遺伝子の一部を植物のDNAに組み込む作用をもっている。これを利用したのが遺伝子組み換え技術である。たとえば強力な除草剤を分解する能力をもつ細菌から遺伝子を切り出し、バクテリアを介して大豆に感染させれば、「除草剤では枯れない大豆」が誕生する。この大豆を畑で栽培すると、「大豆だけは除草剤の影響を受けない」状態になり、農作業が非常に簡略化されるというわけだ。アメリカの化学メーカーモンサント社は、実際に自社の強力な除草剤「ラウンドアップ」と、ラウンドアップに耐性のある大豆(ラウンドアップ・レディと命名された)をセットにして販売し、大きな利益を得た。現在、全世界で栽培されている大豆のおよそ78%がGMO大豆だ(2016年、作付面積による割合。国際アグリバイオ事業団の統計による)。
しかしGMOに対する批判は根強い。その多くは「自分たちが何を食べているのかわからない」「もしかしたら危険なのではないか」という漠然とした不安と不信に基づいている。根拠のある不安はその原因を取り除けば解消するだろうが、根拠のない不安を払拭するのは困難だ。
そして今、遺伝子組み換えをはるかに超える遺伝子技術が実験段階から実用段階へと踏み込みつつある。それが「ゲノム編集」だ。
(つづく)
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