2024年11月14日( 木 )

シリーズ・地球は何処に向かう、日本人はどうなる(4)~中小企業のM&A事情(後)

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自主再建か売却かで悩む創業者

 サラリーマンを20年経験し、40歳で事業を起こした花田(仮名)は後悔した様子で語る。「もう少し大胆に借り入れして事業拡大すべきだった。確かに現在、無借金だが、手堅いだけでは自慢にならない。自分自身の性格は本来、攻撃的だったのだが、経営者になり、いつの間にか安全第一主義になってしまった。攻めの展開をしていたら、会社は現在の10倍の規模になっていたと思うが、もう遅い。75歳を過ぎての方針転換は不可能だ」。

 花田は体調を悪くした。子どもは娘のみで事業継承の対象者がいない。娘婿もその器ではない。一時は「社内から抜擢も考えた」が、やはり該当者がいなかった。だから先程の後悔の念に戻るのである。「現在の10倍に事業拡大をはたしていたら解決策は無数にあった」という。花田は「俺がゼロから立ち上げた会社だから、どういう選択をするかは自由である。しかし考えれば考えるほど迷うのもたしかだ」と語る。

 花田も近々、事業継承という選択をするだろう。M&Aのコンサル会社が企業買収を実施するのだが、問題の根幹は「独立する=スタートアップする」ための人材が皆無だということだ。昔なら「自分の会社が身売りされた」となると必ず骨のある社員が事業を起こすケースが多かった。しかし今の世の中、リスクを嫌う傾向が強まっているせいか、独立しようとする者が皆無なのである。

 M&Aがスムーズに成功して一企業の事業継承に成功すると、会社は吸収されることになってしまう。はたしてそれが日本の経済にとっていいことなのか!!断じてこれは好結果ではない。健全な経済状態というのはステップアップする企業が増えることだ。企業数が減っていくようでは日本経済の将来はない。日本の明日はどうなるのか!!これがこの「シリーズ(4)」で強調したいことである。

M&Aこそが芸術なり

 対馬(仮名)は中核企業3社の経営を生え抜きに任せて悠々自適の生活を送っていた。かつて中核企業のうちの2社は一度、倒産した経緯があった。対馬はこの倒産した2社を引き取って大企業に育て上げた。対馬は現在、週1度取締役会議に出るだけで、どの企業も好調な業績を挙げている。この下に二ケタにおよぶグループ企業群がある。

 対馬の唯一の趣味は読書だった。この2年間は、読書に没頭していたが、シャバとの付き合いが恋しくなったようだ。
 対馬が始めたのは中洲通いではない(対馬は酒をうけつけない体質だ)。シャバ復帰で始めた仕事はM&Aである。グループ会社3社とは別に持株会社を設立して会社を買い漁る日々である。自ら買い漁りしなくとも対馬のもとには次々と情報が飛びこんでくる。連日「対馬さん!!こういう会社が売りにでています。いかがですか」という情報を受け取る。「迅速な行動が成約アップのポイントだ」と対馬は語る。

 「成約率は20%でしょうかね。M&Aの情報や打診があるとワクワクします。恋人探しのように心が踊り、楽しいです。しかし、残念ながらワクワクする気持ちは一瞬でなくなります。一目見て成就できるか否かが判断できるからです。この見切りができるのも、これまでたくさん一目惚れして失敗した経験のおかげでしょう。M&Aを成約したところから私のミッションが始まります。経営内容を改善させるミッションを抱えることになるからです」と語る。

 経営内容が健全でも会社を手放す例もわずかにあるが、経営に行き詰まって投げだすケースが大半だ。対馬は長年、企業を再生させてきた経験をフル活用して会社を健全化させている。「どの企業にも社長をこなせる人材は必ずいます。この人をトップにして経営のコツというかツボを叩き込めば黒字化は簡単です」とわかりやすく解説する。

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 再生した企業に買い手が現れたら転売する。時には恋人を見捨てるような悲しみに襲われることもあるという。
 対馬の目的は儲けることではない。会社買い・再生・転売が趣味なので転売益にはこだわらない。こだわるのは自身の腕による企業再生という結果である。これこそ、まさしく「M&A芸術」だ!!

 それと同様に「我がM&A芸術道」に陶酔しているのが北洋建設を中核にした九州みらい建設グループの総帥・脇山章治氏である。北洋建設は地場ゼネコンでは上村建設につぐ2番手にランクしている。彼自身の経営者歴は後発ながら先輩企業を追い抜き凌駕してきたという実績がある。その実績を買われてさまざまな企業再生の打診があり、ことごとくすべての再生に成功している。

 脇山氏はその再生術を生かして九州みらい建設グループを拡大させている。九州みらい建設グループ一覧(下記)のように業種が多岐にわたっていることに気づくと思う。これを見る限り、脇山氏は事業が第二の動機で、「企業再生・M&Aの芸術道を極める」ことが第一の動機だろう。

(了)

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