2024年12月23日( 月 )

シリーズ・地球は何処に向かう、日本人はどうなる(5)~日本を憂慮する知識人は多いが…「白馬会議に参加して」(後)

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1日目「ハードスケジュール」

 第11回目2018白馬会議の詳細は下記の通りである。

<日 時>
2018年11月17日~18日

<場 所>
長野県白馬村「シェラリゾート白馬」

<主 催>
白馬会議運営委員会

<協 賛>
長野銀行、武者リサーチ

<後 援>
長野県経営者協会、『世界経済評論』(国際貿易投資研究所)

 協賛の長野銀行の中條功頭取は、夜の部に参加していた。また長野の県会議員の方々も参加しており、この会議に対する地元の期待が大きいことがよくわかった。
 今回のメインテーマは「大丈夫か?日本のイノベーション! ―「4つの壁」(組織・財政・技術・防衛)突破の新機軸を問う―』である。要するに「この4方面でのイノベーションがスムーズに進まないと日本の将来はない」という共通認識をもとうというものである。

 会議は4つのセッションに分かれて行われた

(1日目:17日)
【第1セッション】
テーマ「組織」
「“忖度・改竄・隠蔽”を追い出す組織イノベーションとは?」
慶應義塾大学商学部教授 菊沢研宗氏

【第2セッション】
テーマ「財政」
「“第二の敗戦”(財政破綻)を回避する国家財政イノベーションとは?」
法政大学経済学部教授/元財務省財務総合政策研究所主任研究官 小黒一正氏

【第3セッション】
テーマ「技術」
「“技術劣国化”を阻止するイノベーションとは?」
信州大学カーボン科学研究所特任教授 鶴岡秀志氏

(2日目:18日)
【第4セッション】
テーマ「防衛」
「“日本を守る”自衛隊に問われるイノベーションとは?」
東京工業大学客員講師/元第一師団副師団長兼練馬駐屯地指令・陸将補 矢野義昭氏

 ちなみに第3セッションに登壇した鶴岡教授は現在「Net I・B News」で連載中だ。(「第11回『白馬会議』の講演録より『日本の技術劣国化からの脱出』」)
 1日目はセッション1~3までが行われ、午後1時20分から午後5時55分まで白熱した討議が行われた。その後「チェロ・ピアノコンサート」を挟み「カクテルレセプション」「テーブルディナー」「リレーナイトトーク」「自由&交流タイム」が行われた。

 この日は移動時間を含め、延べ20時間活動したことになるが、会議で刺激を受け、精神が高揚したのだろう。疲労をまったく感じなかった。
 時代が大きな枠組みを変える転換点セッション1で登壇した菊沢教授は、イノベーションの源泉である現場(日本の組織)がおかしいとし、立て続けに発覚する大手企業を中心とした不祥事の渦は霞が関・永田町をも巻き込み、スポーツ団体、地方金融機関などの組織に波及し続けていると強調。

 戦後日本の発展の原動力になってきた「日本型組織」の病巣をえぐると“忖度・改竄・隠蔽”の三重奏が聞こえてくる。まさしく日本陸軍そのものであると語った。
 第二次世界大戦が終わって70年以上が過ぎるのに日本固有ともいえる悪しき体質が噴出している。どうすればいいのか?
 防衛大学が試みた旧日本軍の組織研究に米国型経営理論を重ねる同氏は、組織のメンバーの自律的な価値判断を引き出す哲学的なマネジメントにこそ、組織の疲弊を吹き飛ばすイノベーションの突破口があると提起し、指導者たるもの、今こそ強力な哲学が求められると訴えた。

<菊沢研宗氏プロフィール>
 1957年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、同大学大学院博士課程修了後、防衛大学校教授・中央大学教授などを経て、2006年に慶應義塾大学商学部・商学研究科教授に着任。
 この間、ニューヨーク大学スターン経営大学院で1年間、カリフォルニア大学バークレー校、ハース経営大学院に2年間、客員研究員として研究を行う。

 セッション2で講演した小黒氏は日本の財政危機は「癌に例えるとステージ4」の末期に追い込まれていると語り、政治家は負の分配を国民に強いることはできない。この状態がさらに悪化すれば1945年の敗戦時に超インフレが襲ってきたような財政・経済破綻が目に見えていると力説した。

 「まー、何とかなるだろう」と大半の経済学者が流されている風潮のなかで、小黒氏は別格といえるほど具体的な提案をする。医療費支出における年金型マクロ経済スライドの導入など、財務省出身の経済学者ならでの大胆な提案を出し続けている。

 同氏は「歴史を振り返ると70~80年周期で組織が崩壊してきた。また近いうちにその時がくるだろうが、この国民を守る日本の医療制度が崩壊しないために、あらゆる手を打つつもりだ」と語る。

<小黒一正氏プロフィール>
 1974年生まれ。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了。
 1997年 大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から法政大学経済学部教授を務める。

 セッション3で講演した鶴岡氏は前述のように別コーナーで記事を連載しているのでここでは説明を省略する。ただ、1点だけ強調しておきたいのは「中小企業はイノベーションの宝庫」であるということだ。同氏は埼玉県を中心に中小企業へのアドバイザーとして飛び回る日々だという。

 セッション4の矢野氏は京都大工学部と文学部を卒業後、陸上自衛隊に入隊し「制服組」のトップにまで登り詰めた異色自衛官だ。

 矢野氏の講演を聞き、日本を取り巻く現状の安全保障問題を知らずして議論しても砂上の楼閣の議論に過ぎないということを思い知らされた。参加者の約半数ほどは、当初は他人事のように聞いていたが、矢野氏の話の重要性を知るにつけ次第に顔つきが真剣になっていった。

 中国の軍事予算の膨張、核武装の質的転換、日本に打ち込むためのミサイルが数千発あるという事実、ロシアによる具体的な核開発を含めた現実を知り「長閑な平和ボケを一掃しないといけない」と思い知ることになった。
「中国やロシアが日本に攻撃してくることはなかろう」という根拠のない楽観論に浸っていると大事になると認識できたのは大きかった。

<矢野義昭氏プロフィール>
 1950年、大阪府生まれ。京都大学工学部機械工学科及び文学部中国哲学史学科を卒業後、陸上自衛隊に入隊。第1師団副師団長兼練馬駐屯地司令、陸上自衛隊小平学校副校長を経て退官。現在、岐阜女子大学客員教授、日本安全保障・危機管理学会顧問、国家生存戦略研究会会長等を務める。

 今回の会議で講師も参加者も下記のような共通認識をもつことができた。それは「明治維新から150年。この国は戦後から現在に至るまで大きな成長を遂げてきたが、現在、横行している“忖度・改竄・隠蔽”という日本の悪しき体質は、必ずこの国を亡ぼすという危機意識をもたなければならない。しかし、誰1人として今後日本がどういう国になるのか想像すらできない状態だ。解決までにはまだ時間がかかる」ということである。

 全国津々浦々で、白馬会議のようなフリーディスカッションを通じて、日本を変革させるイノベーションの道を明示することが最優先課題になっていることを痛感した。「処方せんを誤れば日本は三流国家へと転落してしまう」という危機感も参加者同士で共有することができたことも付記しておく。
 我々日本人は、転落するか踏みとどまれるかの分岐点に立たされているのである。

(了)

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