検察の冒険「日産ゴーン事件」(4)
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青沼隆郎の法律講座 第20回
第二の重要な構成要件 「虚偽表示」
この問題に関しては前題以上に、虚偽の客観的意義とその認識、つまり故意が問題となる。
問題を複雑にしているのは、単純な事実の齟齬という意味の虚偽というだけでなく、それが表示義務ある事項かどうかの法的判断が錯綜していることである。
具体的にいえば、役員報酬は、当該事業年度に確定したものであれば、現実の支給時期が当該事業年度ではない将来の時期であっても表示義務があるとされることである。従って、支給時期が当該事業年度でないことをもって当該事業年度の有価証券報告書に記載しなければ、虚偽表示となる、との解釈の当否、法律構成の当為である。増額金額自体が総額規制である30億円の範囲内にあり、単なる取締役間の内部分配の問題であり重要事項性がないという前提判断はさておき、虚偽性自体の成否の議論は念の為にも必要である。
厳密にいえば、表示義務違反と虚偽表示は同一ではない。実際に当期に支払われた役員報酬の金額と有価証券報告書に記載された金額が同一であれば、虚偽表示の問題は存在しない。なぜなら、有価証券報告書記載の役員報酬額が正当な役員報酬額であって、役員報酬が別途正式に決定されるという実務が存在すると理解することができないからである。問題は、「観念的に存在する残額の役員報酬を別の将来の事業年度に役員報酬として支給することが、企業会計技術上可能か否か」である。つまり、「当期に支払われない役員報酬」なるものが現実の企業会計上存在しうるかどうかである。
これは講学上、「不能犯」として議論される問題である。企業会計上、当期に適法に決定された役員報酬について現実の支給が、それより少額であれば、差額の残額は会社の負債として計上する他ない。これにより、将来の事業年度でこれが「負債の決済」として正当に決済される。ここに、一部の取締役間だけで密約があるなどの議論の余地はない。そもそも有価証券報告書に記載のない役員報酬が秘密裡に存在するとの前提が法律的議論を不可能とする空想的前提である。従って、それについて表示義務があるとの法的結論も法的に存在しえない「秘密役員報酬」の表示義務を認めるもので、明らかに失当である。秘密の役員報酬が現実化する際には、明らかな法令違反や虚偽表示、さらには横領背任となることは論理必然であるから、そこで初めて刑事罰の対象となる客観的な犯罪行為が実在する。
今回の一連の事実をあえて法律的に表現すれば(仮にあったとしても)ゴーンらの行為は役員報酬に関する犯罪行為の予備罪、準備罪であって、それを禁止、取り締まる規定が金融商品取引法第197条の規定ではないことは明白である。虚偽との認識はない、との弁解否認がゴーンらの供述であるが、有価証券報告書の決済をした出席取締役らが同罪に問われないことも不可思議という他ない。不逮捕の取締役らにも当然ながら虚偽表示との違法認識はなかったであろう。
なぜ、これらの区別差異が生じたのか。それは検察の独自の「見立て」の結果に他ならない。その見立てが、不逮捕取締役らの供述を根拠とするものであるから、明らかに捜査や証拠収集の手段において、不当違法の非難を免れない。
検察の最大の客観的重要事実の故意の無視が、多年度にわたり、多数の公認会計士が違法や虚偽表示がないとの「適正意見」を付してきた事実の完全無視である。
もはや検察の態度はまるで唯我独尊・全知全能の神の如くである。(つづく)
<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)
福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。関連記事
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