2024年11月26日( 火 )

検察の冒険「日産ゴーン事件」(14)

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青沼隆郎の法律講座 第20回

ルノーの反撃手段(2)

 日産の(臨時)株主総会でゴーンら2名の取締役の解任をすると西川代表取締役は記者会見で明言した。はたして、そのようなことが可能であろうか。

 ルノーは43%の株主であるから残りの少数株主「全員」が共同すれば解任決議は成立する。しかし、残りの株主全員がゴーンらの解任決議に賛成するとは限らない。折角の検察リークでゴーンらの極悪人性は十分に報道され、このままでは可能かもしれないが、少しずつ検察の強引さが国民にも理解され始め、少数株主の大団結は不可能である。とくに、西川らが臨時株主総会を招集したなら、ルノーは直ちに株主代表訴訟を提起するから少数株主が検察のリークに踊らされたままである保証はない。

 逆に、西川らの解任動議の提出もある。このように予測が極めて困難な状況の中、優秀な官僚群が水面下で細工すると考えられるのが次の第二の敗戦処理である。

第二の敗戦処理

 検察が被疑者の自白を勝ち取り、抵抗の意思を喪失させる手段が長期拘留による人質司法であることは前述した。否認を続ける2名の被疑者にも、当然検察はこの手法で臨む。

 しかし、今回はいかに東京地方裁判所の裁判官が馬鹿であっても、今まで日本国内だけで通用した長期拘留・人質司法が世界に通用するかどうかぐらいの判断はできるだろう。

 つまり、裁判所も検察に足並みをそろえるかどうかの剣が峰に立たされている。当然、裁判所内部では検察の拘留請求に対処する方針はすでに検討済みである。

 筆者は大方の予想とは異なり、裁判所は追加的長期拘留の請求を却下すると見る。しかも前例にない相当の保釈保証金付きで。それはこれ以上、検察の「勇み足」により本格的国際紛争へと発展する可能性を摘むためである。
そうであれば、裁判所も今回の検察の立件は無理だと認めていることに他ならない。

 不幸にして裁判所が従来通り、人質司法の手助けをしたなら、それは金融官僚が恐れたルノーによる大反撃の始まりとなる。金融官僚の根回しが成功することを祈る他ない。

公認会計士のコメントがない理由―弁護士より窮屈・不自由な国家資格

 公認会計士は公認会計士法で他人が作成した会計文書の評価を禁止されている。それならマスメディアは会計学の学者にコメントを求めるべきであるが、ネットに出てきた企業会計監査論の大家学者の見解が、「企業会計の原則は発生主義であるから、将来の役員報酬であっても確定していれば有価証券報告書に記載する義務がある」というものだった。

 もはや、この大家の論評が、悪意ある誤誘導の論評か、報道記者の意図的な歪曲によるものかのどちらかであることは本稿の読者には一目瞭然である。本件事件の要点は、少数の取締役による秘密の「将来の役員報酬」「契約」が、適法適正な「確定した役員報酬」といえるかどうかであり、「確定した将来の役員報酬」が発生主義により、契約成立時の有価証券報告書に記載されなければならないことは企業会計の初学者も知っていることである。

(つづく)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

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