検察の冒険「日産ゴーン事件」(18)
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青沼隆郎の法律講座 第20回
ゴーン事件における閣内不統一
1:総論
検察は刑事処分担当行政庁であり、その最高責任者は法務大臣である。一方、上場企業の金融商品取引行為に関する行政処分担当行政庁は金融庁であり、その最高責任者は財務大臣である。
今般のゴーン事件は明らかにこれらの担当行政庁の法的見解が真っ向から対立して投資家・株主に無用の混乱と不安を生じさせ、かつ国際的にも批判を浴びる結果、国民生活の多方面・全体にも多大の迷惑・信用損失を生じた重大な内政・外交問題としての様相となっている。これは明らかに内閣不一致、不統一の行政の結果であるから、もはや安倍内閣の責任は避けられない。2:各論
(1)有価証券報告書重要事項虚偽記載罪(以下同罪)による不一致
行政処分としての有価証券報告書重要事項虚偽記載と刑事処分としての同罪は条文上まったく同一の法律要件である。金融庁が多年にわたり行政処分該当事実はないとしてきたものを検察庁が、刑事処分該当事実があるとすることは明白な行政機関相互の矛盾であり、その結果の当事者・関係者の法的被害侵害は重大である。(2)特別背任罪による不一致
ゴーンに特別背任罪の嫌疑事実があるとする検察の主張は、同時に金融庁が、日産の業務執行に重大な法令違反が存在することを「見逃した」との主張を意味する。
報道によれば、10年前にゴーンは自己の個人的取引における損失を日産に肩代わりさせたが、監督官庁の指摘により元に戻した。しかし、その後、ゴーンの保証人となった懇意の会社に日産から巨額の送金があり、これらが特別背任行為に当たるとされた。
金融庁は当然、これらの経緯の一切を認識しており、何らの是正命令処分や必要処分を発していない。つまり、特別背任罪に該当する事実は存在しないとの姿勢である。それは、通常、刑事処分に相当する行為があれば、金融庁は公務員の義務としても告発義務があるから
告発するのであって、金融庁の告発が存在しないことが、特別背任罪に該当する事実が存在しないことの雄弁な証左である。しかるに検察はゴーンを特別背任罪で逮捕した。極めて重大な行政機関相互の見解の矛盾である。ゴーンは外国人であり、かつ世界的にもその経営力を高く評価された人物であり、嫌疑が「濡れ衣」であれば、極めて重大な国際問題である。
安倍内閣はかかる内閣不一致の行政について、すみやかに収拾責任を負うことは明らかである。(つづく)
<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)
福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。関連記事
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