「和と愛」に基づく日本型の健康医療を創っていく 市町村と連帯しながらモデル施設を内外に展開(後)
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―がん統合医療は、治療法の問題や制度上の壁があり、患者が納得して受けられる治療の選択肢が少ないと言われています。この点は専門の立場からどのようにお考えでしょうか。
水上 統合医療のもう1つの側面は、トータルヘルスを目指すということです。トータルへルスというのは肉体的、精神的、あるいはスピリチュアル、ソーシャルな良好状態を目指すことによって自然治癒力を働かせ、病状を改善させていくという考え方です。体内環境を改善し、60兆の細胞を活性化させれば、がん細胞は生きていけないと、私は確信しています。
ところが生命力が低下してしまうと、がん細胞が棲みやすい、増殖しやすい体内環境になってしまう。このため、生命力を復活させるためには、標準治療だけではなく、先進医療や補完医療を試みる必要があるのです。ここで問題になるのが、標準治療と保険が効かない先進医療や補完医療を併せて行うと混合診療と見なされてしまい、本来は保険でカバーできる治療までもが自費扱いになってしまうことです。
最近は「患者申出療養」という制度ができ、先進医療が応用されやすくなりましたが、手続きの煩雑さなど、まだまだ改善の余地があります。また、患者申出療養は、国が管理する“官製混合診療”です。患者の経済的負担に配慮しながら、選択性のある医療を提供するには、どうしても民間医療保険が必要になってきます。もちろん、安全性や有効性が不確かな民間療法を併せて行うことは論外ですが、せめて先進医療については、自費診療をカバーする民間保険を開発してほしいですね。
それと患者さんへの告知の仕方も再考する余地があるでしょう。日本人の患者さんは、がんの告知をすると悲観するあまり自殺してしまうケースが多く、その数はヨーロッパ人の20倍だと言われています。
現状のがん告知そのものがはたして日本人に合っているのか。もちろん、隠すべきでないという意見もあり、患者の知る権利もありますが、私は常々告知の仕方がクールで西洋式過ぎると感じていました。進行がんの場合、「一緒に戦いましょう」と一言添えるだけでも患者の受け止め方はまったく変わってくるのです。日本人は「はい、いいえ」ではなく、玉虫色の言い方、暗示的な言い方もあります。あるいは、段階的な告知、阿吽の呼吸もあります。セロトニンのタイプがウツになりやすいという日本人の民族性に配慮した告知が必要でしょう。
医師は患者に寄り添うことで信頼関係が生まれます。どんなにがんが進行していても、患者が希望をもっているなら、その希望に寄り添うことが必要です。患者との交流を深めることで、人生を学び、人間として成長することができるのです。そのためにも医師は知性を磨き、どんな患者にも対応できる能力を身に着けなければならないのです。
―最後に、財団の今後の活動について教えてください。
水上 これはあくまで私案ですが、1つはモデルとなるクリニックをつくり、都道府県や市町村と連帯しながら内外に展開することです。ドイツのクアオルト(Kurort)のような健康増進施設を併設したイメージです。
医師を始め、コ・メディカルの医療従事者に健康医療教育を行って、内外に派遣する構想もあります。もちろん学術研究の成果を学会発表したり、論文化することも大事ですが、そればかりだと学術団体で終わってしまいます。たとえば良質のサプリメントの普及を支援するとか、公共施設や老健施設などでの健康セミナー、健康医療を包含する民間保険の導入など、時宜にかなった多彩な医療活動を必要に応じて展開していきたいと考えております。
ご存知の通り、超高齢社会となった日本では、健康寿命を延長することが最大の政策課題です。従来の生活習慣病、がん治療に加えて、認知症やフレイル(虚弱状態)への早期対策が求められます。ですから、当面の課題としては、(1)地域に根差した予防・健康増進の支援、(2)エイジング(加齢)指標を用いた新しいドックの開発とデータセンターの設立、(3)具体的な栄養(サプリメントも含む)、身体活動、マインドフルネスなどの実践と、フォローアップデータの確立、(4)がん難民と呼ばれる人々へのコンサルティングの4つを実践目標に掲げました。これらの課題を解いていくには、健康医療領域のみならず、異なる専門性の統合が不可欠です。
当財団の役員には、生活習慣病とエイジング領域を中心に、大学から医療最前線の施設で活動してきた専門家がおりますので、これらの先生方のご協力をいただきながら、10年後に健康寿命が確実に伸びることを目指して取り組んでいきます。当財団の趣旨に賛同される方、企業、市町村の積極的なご支援を心からお願いしたいと思います。
(了)
【取材・文・構成:吉村 敏】
<プロフィール>
一般財団法人国際健康医療研究所
理事長 水上 治(みずかみ・おさむ) 氏
健康増進クリニック院長。1948年、北海道函館市生まれ。1973年、弘前大学医学部卒業。1973年、財団法人河野臨床医学研究所附属北品川総合病院内科勤務。1978年、東京衛生病院内科勤務。1985年、東京医科歯科大学で疫学専攻、医学博士。1990年、米国カリフォルニア州ロマリンダ大学公衆衛生大学院で健康のさまざまな分野におよぶ120単位を取得し卒業。米国公衆衛生学博士。東京衛生病院・健康増進部長を経て、2007年に東京都千代田区に健康増進クリニック開設。2011年7月、癌先進補完医療研究会を立ち上げ理事長に。医学生時代から、自己治癒力が疾病克服の鍵と考え、西洋医学を根本にしながら、エビデンスの高い、体に優しい治療法を臨床現場で施行し続けている。高濃度ビタミンC点滴療法を実施したパイオニアの1人。著書に『日本一わかりやすいがんの教科書』(PHP研究所)、『がん患者の「迷い」に専門医が本音で答える本』(草思社)などがある。関連記事
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