【異色の芸術家・中島氏(59)】アトリエメモランダム「Amazon Kindleで70冊を出版」

劇団エーテル主宰 中島淳一

 断捨離のつもりで整理し始めた、30年間という歳月が刻まれた約300編の紙原稿。色褪せた原稿用紙の山を前に立ち尽くしていた私に、友人が「電子書籍で出版してみたらどうだ」と一言をくれた。

 その言葉が、私の心に再び火をつけた。それからというもの、取り憑かれたように編集作業に没頭する日々が始まった。気づけばわずか数カ月の間に、小説やエッセイなど70作をAmazon Kindleで出版。机に眠っていた文字たちが、デジタルという新たな翼を得て世界へ飛び立ったのだ。

 ありがたいことに、各方面から多くの激励の言葉が届いている。

 私の小説のベースにあるのは、自らの体験を血肉とした純文学だ。しかし、私のペンはそれだけにとどまらない。アサシン(暗殺者)を主人公にした緊迫感あふれるミステリーから、美しき吸血鬼、死神、雪女といったこの世ならざるものを描いた幻想文学まで、そのジャンルは多岐にわたる。

 改めて、文学という広大な海のなかで、自分の空想を奔放に解き放つ自由を心から満喫している。しかし、どれほど筆を躍らせようとも、それが読者の琴線に触れなければ、ただの自己満足の妄想に終わってしまう。その緊張感もまた、心地よい刺激だ。

 この年齢になって、若いころに書き散らした原稿の編集に、毎日14時間も費やすことになるとは夢にも思わなかった。未完成の原稿の断片を現代の視点で見つめ直し、一本の作品へとつなぎ合わせて完成させる作業は、決して容易ではない。

 だが、過去の自分と対話し、物語に命を吹き込む時間は、何にも代えがたい至福の時でもある。

 目指すは、手元に残るあと230編の完全復活だ。それらすべてを出版し、私の生きた証を刻みたい。1人でも多くの読者の心に、私の物語が届くことを深く願いながら、今日も私は画面に向かい、万年筆をスマホに変えて文字を紡いでいる。 

< 前の記事
(58)

関連キーワード

関連記事