宇宙エレベーターで誰もが宇宙へ 東北大学の学生が挑む次世代インフラ

『SELECT』宇宙エレベーターチャレンジトーホク
代表 古庄悠樹 氏
広報・渉外部長 児玉幸斗 氏
研究部長 小川成就 氏

 地上と宇宙を長大なケーブルで結び、その上を昇降機が自走して人や物資を運ぶ「宇宙エレベーター」。長らくSFの世界の構想とみられてきたが、東北大学の学生団体『SELECT』宇宙エレベーターチャレンジトーホクは、自走式昇降機の開発、宇宙利用に関する研究、地上産業への技術応用に取り組んでいる。宇宙エレベーターに関する国際ミッション設計コンテストでは、2025年に国際第3位、26年に同第2位に入賞。26年8月にはクライマーの世界大会にも挑む。宇宙エレベーターは何を可能にするのか。日本が世界を先導する余地は残されているのか。活動を担う3人に聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役社長 緒方克美)

宇宙まで自走する
「クライマー」を開発

 ──まず、宇宙エレベーターとはどのようなものですか。

 古庄悠樹氏(以下、古庄) 地表と宇宙を約10万kmにおよぶ長大なケーブルで結び、そのケーブルに沿って昇降機が上り下りする輸送システムです。もともとはSFの世界で構想されたもので、日本では大林組が2050年の運用開始を目標として研究を進めています。

 ただし、実現するには、長大なケーブルの素材や建設方法、隕石やスペースデブリへの対応など、さまざまな課題があります。私たちは工学を学ぶ学生として、まずケーブル上を自ら走行する「自走式昇降機」、いわゆるクライマーの開発から始めました。

 一般的なエレベーターは、建物上部に大規模な駆動装置を設置し、ロープを動かしてかごを昇降させます。しかし、宇宙空間に同様の巨大設備をつくるのは現実的ではありません。そこで、ケーブルを固定し、昇降機自体にモーターや駆動輪を取り付けて走らせる方式が必要になります。構造が比較的シンプルで、省スペース化できることも自走式の利点です。

 ──現在、開発している昇降機の規模はどの程度のものですか。

 古庄 最小限の機構で動く小型のクライマーと、最大200kgを持ち上げられる大型クライマーを開発しています。実験では、クライマーを数十mのロープ上で昇降させています。将来的には、そのロープが宇宙まで延びていくイメージです。

 日本宇宙エレベーター協会が主催する宇宙エレベータークライマー競技会「SPEC」にも、19年からほぼ毎年出場し、22年にはクライマー部門賞を受賞しました。26年8月には、カザフスタンで開催される国際宇宙エレベータークライマー競技会「WSPEC」にも挑戦します。

ロケットより低コストで
大量輸送を可能に

 ──宇宙へ行くのであれば、ロケットで十分ではないかという疑問もあります。

 古庄 宇宙エレベーターの大きな利点は、経済合理性です。建設には莫大な費用がかかりますが、一度完成すれば、同じ設備を繰り返し使って人や物資を運べます。ロケットのように、輸送のたびに機体や大量の燃料を用意する必要がありません。構想上は、宇宙への輸送費をロケットの100分の1程度に下げられるともいわれています。宇宙利用を一部の政府機関や大企業だけでなく、より多くの企業や個人に開く可能性があります。

 また、ロケットは燃料を燃焼させて急加速するため、搭載する人工衛星などに大きな振動や衝撃が加わります。宇宙エレベーターはケーブル上を電力で上昇するため、ペイロードに加わる負荷を小さくできます。燃料の燃焼をともなわないことから、環境負荷の低減や安全性の向上も期待されています。

 小川成就氏(以下、小川) 大量の物資を宇宙へ運ぶ場面では、ロケットと宇宙エレベーターの違いがさらに大きくなります。私たちの研究では、約1万人が暮らせる宇宙居住地を建設するケースを想定し、スターシップ級のロケットだけで資材を運ぶ場合と、宇宙エレベーターを使う場合を比較しました。

 設定した条件の下では、ロケットによる建設には約1万7,000年を要するのに対し、宇宙エレベーターがあれば約256年まで短縮できるというシミュレーション結果になりました。どちらも非常に長い期間ですが、人類が宇宙に大規模な生活圏を築くことを考えれば、輸送能力の違いは決定的です。

 ──将来的には、人も運ぶのでしょうか。

 小川 最終的には人を運ぶことが想定されています。ただ、実用化の初期段階では、人工衛星や建設資材などの物資輸送から始まると考えています。安全性や信頼性を十分に確立した後、人の輸送へ移っていくことになるでしょう。

宇宙エレベーターの昇降機「クライマー」
宇宙エレベーターの昇降機「クライマー」

日本が先行するクライマー技術

 ──宇宙エレベーターの研究で、日本はどのような位置にありますか。

 小川 宇宙エレベーター全体としては、各国とも国を挙げた大規模開発には至っていません。国家予算は、ロケット、人工衛星、軌道上サービスなど、10~20年程度で具体的な成果が期待できる分野に配分されやすいからです。

 一方、宇宙エレベーターに必要とされる素材の候補であるカーボンナノチューブは、日本人研究者が発見しました。クライマーの開発についても、日本は世界を牽引していると認識しています。国内の競技会では、多くの日本チームが300m程度の昇降を実現しています。海外から参加したチームのなかには、途中までしか上れなかったり、上った後に下降できなかったりする例もあります。少なくともクライマーの製作技術では、日本に優位性が残っています。

 ──日本がその優位性を維持し、実用化へつなげるためには何が必要ですか。

 小川 最も大きな課題は資金だと考えています。日本には、ゼロから新しい技術を生み出す力があります。しかし、最初の発見や試作の後、それを社会実装できる規模まで成長させる研究費や投資が十分でなければ、資金力のある国に追い越されてしまいます。

 宇宙開発では、成果が出るまでに長い時間がかかります。短期的な成果だけを求めず、将来の基盤技術に継続して投資する仕組みが必要です。また、日本は新しい技術の導入に慎重になりやすい面があります。研究成果を積極的に発信し、社会全体に期待感を生み出す姿勢も重要だと思います。

 児玉幸斗氏(以下、児玉) 国の支援を待つだけでなく、クライマーを地上産業に応用し、技術自体を事業として成立させることも1つの方法です。建設、物流、風力発電などで利用されるようになれば、モーターや駆動輪、制御技術の改良が進み、それが将来の宇宙エレベーターにも還元されます。宇宙エレベーターを最終目標としながら、途中で生まれる技術を社会の課題解決に生かす。その積み重ねによって、長期的な技術基盤をつくることができると考えています。

学生団体の強みを生かし
技術を次代へ継承

 ──現在、何人で活動していますか。

 古庄 東北大学の学部生と大学院生、約28人で活動しています。大学内に部室があり、研究、開発、広報、渉外などを分担しています。

 私は2代目の代表です。初代代表は、開発から研究、対外活動まで1人で何でもできる非常に能力の高い方でした。しかし、特定の個人に知識や仕事が集中したままでは、その人が卒業した後に団体が続きません。

 そこで、業務ごとに部署を設け、それぞれの責任者に権限を移しました。部署のなかで知識や技術を共有し、後輩へ引き継ぐ仕組みを整えています。私自身も今冬の引退を見据え、次の世代への継承を進めているところです。

 ──将来、スタートアップとして事業化する可能性はありますか。

 児玉 クライマー技術を地上産業へ応用する事業については、5年ほど検討してきました。現時点では簡単ではありませんが、引き続き可能性を探っていきます。研究面でもSELECTとして実績が積み上がっており、将来的に事業化する道はあり得ると思います。

 ただ、学生団体だからこそできることもあります。短期的な利益を優先せず、本当にやりたい研究や、つくりたいクライマーの開発に挑戦できます。大学から設備や活動面で支援を受けられることも大きな利点です。事業化を急ぐのか、学生団体として研究を深めるのか。両者のバランスを考えている段階です。

 ──海外での実証や事業展開も考えていますか。

 児玉 市場や投資額の大きさでは米国が有力です。一方、技術の実証を始めやすい地域として、東南アジアなども考えられます。洋上風力発電への応用について、私が欧州留学中に関係者へヒアリングした際には、日本よりも新しい技術を積極的に取り入れようとする姿勢を感じました。どの国や地域であれば実証しやすいのか、市場の規模だけでなく、導入へのスピード感も見極める必要があります。

人類が未来へ進む姿を
目に見えるかたちに

 ──実現まで長い時間がかかる宇宙エレベーターに、なぜ挑み続けるのでしょうか。

 児玉 地上と宇宙が1本の構造物でつながる宇宙エレベーターは、人類が未踏の地へ進んでいく姿を、目に見えるかたちで示すものだと思っています。ロケットも宇宙へ行きますが、打ち上げが終われば地上からは見えなくなります。宇宙エレベーターは、地上から宇宙まで常につながっている。人類が未来へ進んでいることの象徴となる点に、魅力を感じています。

 古庄 私は、宇宙をもっと身近な場所にしたいという思いで活動しています。宇宙エレベーターができれば、製造、医療、観光など、さまざまな産業が宇宙へ進出できるようになります。新しい経済圏が宇宙に生まれるはずです。現在の宇宙は、宇宙飛行士や多額の費用を支払える一部の人しか行けない場所です。それが、誰もが行ける場所になってほしい。そのためには、宇宙エレベーターのような大量輸送インフラが必要だと考えています。

 小川 私は、人類の生存圏を宇宙へ広げたいと考えています。月や火星などへの探査では、地球と惑星の位置関係によって、ロケットを打ち上げられる時期が限られます。宇宙エレベーターを宇宙輸送や探査の拠点として利用できれば、現在よりも柔軟に探査機を送り出せるようになります。宇宙エレベーターは、地球から宇宙へ上るためだけでなく、さらに遠い宇宙へ進むためのインフラにもなります。

企業と学生でSFの世界を現実に

 ──企業経営者に伝えたいことは。

 児玉 宇宙エレベーターは、まだ空想上のものだと思われているかもしれません。しかし、私たちはワクワクする未来をつくりたいという思いをもち、今できることから地道に挑戦しています。日本社会は、将来に対して期待をもちにくくなっているようにも感じます。だからこそ、SFで描かれてきた世界を現実にするような挑戦が必要です。学生と企業が一緒になって、日本から新しい未来をつくることができればと思います。

 小川 宇宙エレベーターが10~20年で完成する可能性は高くないかもしれません。私たちが生きている間に完成しない可能性もあります。それでも、今の研究や開発で得た方法や技術を次の世代へ残すことには意味があります。何世代にもわたって知識を積み重ねることで、次世代の宇宙インフラが実現します。この挑戦に関心をもつ企業の方々には、ぜひ一緒に未来の宇宙インフラをつくっていただきたいと思います。

 古庄 私たちの原点は、単純に「宇宙へ行ってみたい」という思いです。無重力を体験したい、宇宙から地球を見たい、きれいな星空を見たい。多くの人が一度は考えたことがあるのではないでしょうか。その願いを、より多くの人が実現できるようにするのが宇宙エレベーターです。宇宙へ行ってみたいと思う経営者の方には、ぜひ私たちの挑戦に参加していただきたいと思います。

【文・構成:松下森音】

SELECTは、8月の宇宙エレベーター国際競技会(カザフスタン)と10月の国際宇宙会議(トルコ) に出場するための渡航費・参加費を補填するために、クラウドファンディングを実施している。
宇宙エレベーターの実現に向け、開発と研究の両輪で世界に挑みます!

国際宇宙会議2025の様子
国際宇宙会議2025の様子

『SELECT』宇宙エレベーターチャレンジトーホク
東北大学の学部生・大学院生約28人で構成する学生団体。宇宙エレベーターに不可欠な自走式昇降機「クライマー」の開発を中心に、宇宙エレベーターの利用方法に関する研究、情報発信、地上産業への技術応用に取り組む。ISEC国際ミッション設計コンテストで2025年に国際第3位、26年に国際第2位。日本宇宙エレベーター協会主催の競技会や国際学会にも参加している。
https://select-tohoku.com

古庄悠樹(ふるしょう・ゆうき)
古庄悠樹(ふるしょう・ゆうき)東北大学大学院工学研究科博士課程前期1年。SELECT第2代代表。団体の組織化と技術・知識の継承体制づくりを進める。

児玉幸斗(こだま・ゆきと)
児玉幸斗(こだま・ゆきと)東北大学大学院工学研究科博士課程前期1年。SELECT広報・渉外部長。自走式昇降機を地上産業へ応用するLIFTプロジェクトなどを担当。

小川成就(おがわ・あきなり)
小川成就(おがわ・あきなり)東北大学工学部3年。SELECTの研究部長を担当。宇宙居住地の建設や惑星防衛など、宇宙エレベーターを利用したミッション研究に取り組む。

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