国際未来科学研究所
代表 浜田和幸 氏
国家情報局を実効性のある組織とするには、各省庁からの出向者だけでなく、対象国に精通した専門職員や民間の研究者、IT人材を継続的に確保する必要がある。高市政権は独自の人材育成に加え、将来的な「対外情報庁」の創設や外国代理人登録制度の導入も視野に入れ、日本の情報機能を抜本的に強化しようとしている。
省庁の壁を越えた専門人材の確保
国家情報局が扱う「中国、ロシア、北朝鮮」といった特定対象国の専門家については、従来の「外務省や防衛省からの短期派遣」に全面的に頼る体制から脱却し、新方針として「国家情報局独自の専門キャリア採用」と「民間・シンクタンクからの積極的な中途採用(官民交流)」を掛け合わせた独自のハイブリッド型の人材確保への移行が決定しています。
木原官房長官によれば、専門人材の具体的な集め方は以下の通りです。
1.従来の「省庁からの派遣・出向」の継続と質の変化
発足当初の約700人体制においては、引き続き各省庁からの出向者が主戦力となりますが、その集め方は高度化しています。外務省からは北京やモスクワ、ソウルなどの在外公館で実際に勤務し、現地の生々しい政情や人脈を握る「チャイナ・スクール(中国語研修組)」やロシア専門の外交官が選抜派遣されるはずです。
防衛省・自衛隊からは、防衛研究所の研究員や、電波・衛星情報を解析する情報本部の「シギント(通信傍受)/イマージュ(画像解析)」の技術専門官が、中国人民解放軍や北朝鮮のミサイル基地を監視するために送り込まれます。
警察庁・公安調査庁からは、国内に潜伏する中朝ロのスパイを実際に摘発してきた、ヒューミント(人的情報収集)や防諜(カウンターインテリジェンス)のプロが派遣されます。
2.独自の「専門キャリア組(生え抜き)」の直接採用
今回の格上げの最大の目玉として、各省庁の利害に左右されない「国家情報局独自のキャリア(プロパー職員)」の直接採用が27年から開始されます。これまでの「国家公務員試験(総合職・一般職)」の枠組みとは別に、「中国語・ロシア語・朝鮮語の高い語学力」や、現地の社会情勢・サイバー技術に特化した特別な採用枠を新設する予定です。
採用された職員は、数年で元の省庁に帰ってしまう出向者と異なり、一生を通じて特定対象国のインテリジェンス(情報収集・分析)のみに従事する純粋な「日本のスパイ・アナリスト」として中枢へ育成されることになります。
3.民間企業・シンクタンクからの「即戦力の中途採用」
政府は「官民交流」の大幅な拡大を表明しており、公務員試験という枠に囚われない中途採用を積極化させています。と同時に、地域専門家(アカデミア)の引き抜きも想定しています。笹川平和財団、PHP総研、あるいは大学の中国・ロシア研究室といった外部シンクタンクから、現地の政治・軍事動向を何十年も追い続けている超一流の研究者を「任期付き職員」や「専門調査員」として厚遇で迎え入れる方針です。
4.次世代技術の「テック専門家」の囲い込み
中国やロシアによるサイバー攻撃、SNSを使った認知戦に対抗するため、語学の専門家だけでなく、高度なIT専門家を民間から集めます。膨大な通信データや人工知能を扱う「AI技術者」や、公開情報(OSINT)をネットの隅々から収集し分析できる民間企業のデジタルフォレンジック専門家を中核として登用する計画です。
対外情報庁構想と新法制の課題
高市政権は、国家情報局という「箱(組織)」をつくることを第一歩(フェーズ1)と位置付けており、今夏に立ち上げる有識者会議を通じて、いよいよ本丸である「スパイ防止法制」や「対外情報庁(仮称)」の策定(フェーズ2)へ踏み出します。27年度末に目指す「対外情報庁」は、米CIAや英MI6のように、自ら海外の現場に人員を派遣し、人間のネットワークを駆使して能動的に情報を取ってくるための諜報機関です。
海外で危険をともなう情報活動を行うにあたり、「身分の秘匿」や、万が一拘束された際の救出・スパイ交換の仕組みをどう法制化するかが最大の焦点です。日本の法制度にはこうした規定が一切存在しないため、人員の身体の安全を保障する特別な特例措置が議論されているところです。
現在、日本の各省庁を合わせた情報従事者は約3.3万人(その6割超は国内の警察官)で、米国の約20万人規模に比べて圧倒的に手薄です。対外情報庁の創設に向け、防衛省の「別班」のノウハウ活用や、民間から高度な言語・地域専門家、データサイエンティストを大量採用する受け皿とする構想が進んでいます。
外国代理人登録制度の狙いと課題
と同時に検討されているのが「外国代理人登録制度(日本版FARA)」です。この制度は米国、英国、オーストラリアなどで導入されている制度に他なりません。「外国政府や外国組織の指示・資金提供を受け、日本の政策、世論、選挙、メディアに影響を与える工作を行う団体や個人」に対し、政府への事前登録と情報開示を法的に義務付けることになります。
この法律の狙いは、単にスパイを逮捕することではなく、「誰が、どこの国の資金で、どんな宣伝や政策提言をしているか」を社会に対してガラス張り(可視化)にすることにあります。登録せずに裏で活動した場合は違法となり、警察や情報機関がその資金源や経緯を強制的に調べる強力な武器になります。
自民党と日本維新の会の連立政権合意書に基づき、当初は26年秋の臨時国会への提出が想定されていましたが、より慎重で強固な制度設計を行うため、現在は「27年の通常国会以降」への提出へ後ろ倒しされ、水面下で精緻な条文づくりが進められています。
(了)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。









