嬉野市、温泉配湯事業のDD・価格算定業務を公募 事業譲受検討が実務段階へ
嬉野市は、温泉配湯事業の譲受検討に係る調査業務について、公募型プロポーザルを実施している。民間事業者から事業譲渡の申し出があったことを受け、資産・設備投資・法務・財務の各デューデリジェンス(DD)や事業価値算定、譲受後の財政収支シミュレーションなどを行う。本件は、当社がこれまで報じてきた嬉野温泉配湯(株)の配湯事業譲受問題にかかわる動きであり、配湯事業引き受け構想は、政治的表明の段階から実務的な調査・評価の段階へ移ったことになる。
【7/9まで】市が調査業務を公募、上限額は3,498万円
嬉野市は、公募型プロポーザル方式での「温泉配湯事業の譲受検討に係る調査業務」の受託事業者の募集を6月23日から開始した。業務期間は契約締結日から27年2月26日までで、契約上限額は3,498万円(税込)。参加表明書類の提出期限は7月9日午後5時、企画提案書類の提出期限は7月17日正午となっている。審査は7月23日にプレゼンテーションおよび質疑の形式で行われ、審査結果は7月30日に通知予定。契約締結は8月上旬ごろとされている。
嬉野温泉にて旅館などへ温泉を供給している嬉野温泉配湯(株)から、市に対して事業譲渡の申し出があった件にかかわって、今回の業務は、市が配湯事業の譲受について検討を進めるため、各種調査を実施し、適切な譲受価格の設定や、取引相手方との交渉に必要な条件などを整理・分析することを目的としている。
プロポーザルの詳細については、嬉野市の下記ホームページをご覧いただきたい。
嬉野市ホームページ「温泉配湯事業の譲受検討に係る調査業務委託公募型プロポーザルの実施について」
業務内容はDDと譲受価格の算定
今回の業務内容は、単なる設備調査ではない。仕様書では、前提条件の整理、基本合意契約の締結支援、デューデリジェンス(以下、DD)業務、事業価値(譲受価格)の算定、財政収支シミュレーション、業務報告書の作成などが掲げられている。
DDの内容としては、資産DD、設備投資DD、法務DD、財務DDが示されている。資産DDでは、土地・建物のほか、取引相手方が所有する資産について調査・評価する。設備投資DDでは、事業譲受に必要な配湯設備について、概算コストを算出するための調査・分析・検討を行う。分析にあたっては、市が24年度に実施した温泉配湯管現況調査の結果を用いることも想定されている。
法務DDでは、温泉法関連許可、採取許可、利用許可、温泉権、水利権、源泉所有権、利用者契約、料金契約、配管ルートの権利、地役権、占用許可、訴訟・紛争などが調査対象として想定されている。財務DDでは、取引相手方の本事業に係る財務状況を調査・評価し、使用料収入の推移、顧客別売上、運転資本などを分析する。
さらに、各種DDの結果を踏まえて、適切な事業価値、すなわち譲受価格を算定することも業務に含まれている。譲受後に市がどの程度の財政支出を見込むべきかを把握するため、財政収支シミュレーションも実施する。市が民間事業を譲り受ける可能性がある以上、価格、設備更新費、法的リスク、収支見通しを客観的に検証することを目的とする。
(豊玉姫神社参道横)
公開資料上は会社買収ではなく事業譲受
今回のプロポーザルで重要なのは、調査対象の範囲だ。公開資料上、今回の業務は、嬉野温泉配湯(株)という会社そのものの買収を前提とした企業買収DDではなく、温泉配湯事業という特定事業の譲受を検討するためのDD・価格算定業務と読むことができる。
仕様書では、「事業譲渡」「配湯事業の譲受」「事業価値(譲受価格)」となっている。また、法務DDでは、人事労務分野については想定していないと明記されており、財務DDも、会社全体の財務状況ではなく、「本事業に係る財務状況」の調査・評価とされている。会社そのものを取得するのであれば、会社全体の債務、偶発債務、税務、労務、担保、株主・債権者関係などを含めたより広範な調査が必要になるが、今回の仕様は、そうしたフルスコープの企業買収DDとは異なる。
つまり、今回プロポーザル公募を行うDD業務は、あくまでも配湯事業のみを譲受することを前提にしたDDの建付けだ。
背景にある配湯会社問題
市の公開資料では、取引相手方の社名は明記されておらず、「民間事業者」または「取引相手方」と表現されているが、本件は、当社がこれまで報じてきた嬉野温泉配湯(株)(以下、配湯会社)の配湯事業譲受問題に関わるものだ。
当社既報で詳しく報じてきた通り、嬉野温泉では源泉を所有する限られた事業者しか温泉をくみ上げることができず、源泉を持たない温泉事業者は、配湯会社から温泉の供給を受けている。配湯を受けているのは、温泉街の温泉事業者の約6割に当たる22施設と170戸程度にのぼる。これらの事業者にとって、配湯会社からの温泉供給はまさに命綱である。
一方で、配湯管の老朽化や漏湯は長年の課題となってきた。昨シーズンに嬉野温泉の源泉水位低下問題が表面化した際には、配湯会社がくみ上げる湯量のうち相当量が漏れていることが問題視され、源泉水位低下の要因の1つとされた。配湯会社自身に大規模な設備更新を行う力が乏しいとみられるなか、温泉事業者らからは行政の介入を求める声も上がっていた。
25年12月23日、当時の村上大祐市長は臨時記者会見を開き、配湯会社から市に対して事業売却の申し出があったことを明らかにしたうえで、配湯事業の引き受けを前向きに検討する姿勢を示した。しかし、その時点では、市として正式な検討を行う前の表明であり、譲受対象が配湯事業のみなのか、会社そのものなのか、また市の負担がどの程度になるのかは明確ではなかった。当社は、この点を含め、配湯事業引き受け表明の経緯や、配湯会社の実態について継続的に報じてきた。
問われるのは、市が何を引き受けるのか
今回のプロポーザルが事業譲受を前提としている点は、今後の議論でも重要な論点となる。市が引き受けるべき対象は、配湯事業のみなのか、それとも配湯会社本体まで含むのか。この違いによって、市民負担とリスクは大きく異なるからだ。
当社はこれまで、配湯会社の前身企業である嬉野温泉観光(株)が07年に実質的に経営破綻し、配湯事業を承継するかたちで配湯会社が設立された経緯についても報じてきた。
仮に配湯事業だけを譲り受けるのであれば、主な論点は、配湯設備、温泉権・水利権、契約関係、設備更新費、事業収支、譲受価格の妥当性などに絞られる。一方、会社そのものを取得する話になれば、論点はまったく変わることになる。
本件プロポーザル公募は、あくまでも「事業譲受」のための関連調査業務だ。その行方がどのような結論として報告されるのか、注意深く見守る必要がある。
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『嬉野市長選に乗じて仕掛けられた企業譲渡 温泉地を縛る負の遺産はどこへ行くのか?』(26年2月9日掲載)
『村上大祐嬉野市長の配湯事業引き受け表明を問う』(26年1月15日掲載開始)
【寺村朋輝】








