2024年11月27日( 水 )

検察の冒険「日産ゴーン事件」(23)

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青沼隆郎の法律講座 第20回 

公訴提起の順序操作による公訴時効成立の意図的隠蔽・回避

 特別背任罪は当然、有価証券報告書重要事項記載罪をも包含成立させる(観念的競合。正確には特別背任罪を隠蔽する目的結果の虚偽記載であるから牽連犯)。

 そして有価証券報告書重要事項虚偽記載罪は重要事項ごとに成立する犯罪ではなく、一個の有価証券報告書について一罪成立し、その後、各年度の経営状況資料が上書き継続されること、保護法益は金融商品取引・投資家株主の保護であるから、虚偽が訂正されない限り
虚偽記載は実質的に継続するから、公表される限り、保護法益の侵害は続く。従って継続犯一罪が成立する。(保護法益の侵害は一個と認識される)

 すなわち、ゴーンについては2008年に特別背任罪と有価証券報告書重要事項虚偽記載罪が成立しており、後に別の重要事項について虚偽記載が存在しても、それは単なる情状の変動にすぎない。新たな同罪が単独に成立するものではない。そして、2008年に成立した同罪一罪が公訴時効により公訴権が消滅した以上、継続中の情状変動も一罪に吸収された結果、消滅する。
結局、検察が公訴権の行使として犯罪の成立時期や罪質を無視し、恣意的に細切れに起訴したり、起訴の順序を自在に操作した結果、公訴時効の効果が隠蔽されたもので、公訴権の濫用以外の何物でもない。

訴訟要件の職権探知主義と検察官の立証責任

 公訴事実について公訴時効が成立しているため、訴訟要件を欠くことについて誰が最終責任を負うかの問題である。公訴時効の成立は犯罪行為時と公訴提起時と各犯罪についての時効期間の規定だけから判断される事項であるから、当然、裁判所の職権探知事項であり検察官の主張立証、被告人の主張立証の存否は関係ない。ゴーン事件について裁判所が公訴時効の成立を理由に免訴の判決をしない場合、単に重大な法令違反の問題ではなく、刑事裁判に関する裁判所の能力の問題、日本の刑事裁判制度の根幹に関わる問題となる。

 もちろん、公訴時効が成立していないとの主張と立証責任は法255条第2項および刑訴規則166条により、検察官が、今回の起訴に際し、過去に適法な公訴提起により、ゴーンが海外にいたことまたは逃げ隠れしていたため、有効な起訴状の送達ができなかったことを立証することによって具体的な時効停止とその停止効果の継続を立証することになる。しかし、明らかに客観的事実はそのような主張立証を可能とする状況にない。

(つづく)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

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