2024年12月23日( 月 )

2019年の注目経営者、潮田洋一郎・LIXILグループ会長兼CEO~仰天!! LIXILがMBOで、日本脱出か?(前)

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仰天情報が飛び込んできた。LIXILグループが、東証上場を廃止し、本社をシンガポールに移転するというのだ。同社は直ちに、この報道を否定。はたして、日本脱出は実現するのか。その真意を検証してみよう。

日経ビジネスのスクープ

「スクープLIXILがMBOを検討、日本脱出も」
 『日経ビジネス』電子版(2019年1月21日付)が、上記タイトルで報じた。引用する。

〈LIXILグループに激震が走っている。プロ経営者の瀬戸欣哉社長からCEO(最高経営責任者)の座を取り戻した創業一族の潮田洋一郎会長が、MBO(経営陣が参加する買収)で日本の株式市場から退出し、さらにシンガポールに本社も移そうとしていることが明らかになった。年間売上高が2兆円に迫る巨大企業の日本脱出計画は、本当にこのまま進むのだろうか。
極めて異例なシナリオだが、潮田氏はどうやら本気だ。業界トップの大企業が東京証券取引所での上場を廃止し、本社をシンガポールに移転するという過去に例がない大転換を進めようとしている。潮田氏はシンガポール取引所(SGX)への新規上場も目論んでいる。
関係者によると、LIXILグループは昨年、MBO・本社移転・シンガポール上場という一連の計画を検討することを取締役で決議している。つまり、この計画は潮田氏が独断で進めている話とはもはやいえない。潮田氏の本気度がうかがえよう。瀬戸氏を退任させるのは、この驚きの計画を前に進める布石だった。〉

 LIXILグループは1月21日、MBO・本社移転・シンガポール上場という報道に、「取締役会において、検討および決議を行った事実は一切ない」と否定するコメントを発表した。

 東証は21日、同社株の売買を午前8時20分から一時停止。同日午前10時1分に取引を再開した。報道を受けて、LIXILグループの株は一時、前週末日10%上昇した。MBO価格のプレミアム(上乗せ分)を期待して買われた。

 こうしたスクープ記事が出ると、マスコミ各社は後追い記事を載せるものだが、その記事が見当たらない。どうやら、マスコミ各社は、LIXILが否定したため、日経ビジネスの記事を“勇み足”とみているようだ。

 同誌にネタを流した「関係者」とは誰か。潮田氏サイドが、計画を既成事実にする目的で流したのか。それとも、反潮田側が、計画を潰すために流したのか。

アルミサッシから樹脂サッシへの転換を迫られる

 上場廃止、日本脱出が実現するかはともかく、筆者は、潮田洋一郎氏なら、さもありなんと、納得するものがあった。

 株式市場での潮田氏の経営者としての評価は極めて低い。昨年11月1日、プロ経営者の 瀬戸欣哉社長兼CEOを更迭し、創業家出身の潮田洋一郎氏が会長兼CEOに就いた。

 11月1日のLIXILグループの株価は、一時、251円安(14%安)に下落。その後も、下げが止らず、11月13日には1,401円と12年6月以来の安値を付けた。株式市場は、潮田氏の経営復帰に「ノー」をつきつけたということだ。

 潮田氏では、主力のアルミサッシが2020年に直面する壁を乗り越えられないと見なされたからだ。

 政府は2020年から省エネ施策を義務化し、断熱効果のある樹脂サッシへの転換が進める。アルミサッシに代わって需要が伸びるのが断熱性の高い樹脂サッシで、競合のYKKAPが攻勢をかけている。

 アルミサッシで圧倒的なシェアを握っていたLIXILは守勢に立たされた。LIXILがアルミサッシから樹脂サッシに軸足を移せば、既存のアルミサッシの工場の稼働率が低迷し、減損リスクが大きくなって、業績の悪化は避けられない。

 2020年のアルミサッシの壁をどう乗り越えるか。創業一族の御曹司である潮田氏では、力不足と見なされた。これがLIXIL株暴落の最大の原因だった。

英ダイソンがシンガポールに本社を移転

 株式市場の懸念を打ち消すかのように潮田氏が出した答えが、過去に例がない大転換。MBOで上場廃止、日本脱出・シンガポールへの本社移転、シンガポール取引所への上場計画ということだ。

 〈シンガポールに本社を移転すれば、日本よりも法人税率が低いため、節税効果が得られることが想定される。潮田氏自身が現在、居を構えて生活の拠点にしているのもシンガポールだ〉(前出の『日経ビジネス』電子版)

 折しも、英家電大手ダイソンは1月22日、本社を英国からシンガポールに移すと発表した。ブルームバーグ通信が報じた。「Sankei Biz」(1月24日付)が転載している。

 〈掃除機やヘアドライヤーで知られる同社は、拡大するアジアの顧客をてこに、ここ数年で急成長。空気清浄機やヘアケア製品にも業容を拡大しているほか、シンガポールで2021年までに電気自動車(EV)生産する計画に多額を投じていている。
 創業者のジェームズ・ダイソン氏は熱烈なEU離脱支持者だ。しかし、同社のジム・ローウェン最高経営責任者(CEO)は電話で記者団に対し、シンガポールの本社移転は税制や英国のEU離脱をめぐる懸念が理由ではなく、アジア地域に事業の軸足を移しているためだと説明した。〉

 それでは、シンガポールの何が企業を引きつけるのか。
〈CIMBプライベート・バンキングのエコノミスト、ソン・スー・ウン氏(シンガポール在勤)は、シンガポールがコスト高にもかかわらず企業を引き付けている一因には、世界的な政治に対する不透明感の高まりがあると述べ、「多額を投資する場合には計画の視界が良好な方がよい。シンガポールのハード、ソフト面のインフラはコスト高を相殺する上、ダイソンやほかの企業に対する付加価値のある条件を提示している」と説明した。〉(同上)

 シンガポールの法人税率は現行17%で企業による研究開発(R&D)投資への税額控除を増やす方針など税優遇措置が多数ある(日本の法人税率は29.97%)。

 潮田氏がシンガポールに本社を移す理由は何だろうか。

(つづく)
【森村 和男】

(後)

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