2024年11月23日( 土 )

『脊振の自然に魅せられて』「雪の小爪峠へ」

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 椎原バス停より1つ前の湯の野バス停から小爪峠へ通じる登山道があります。

 脊振山系のなかでも最も雨が多い場所です。豪雨による濁流の影響で沢沿いの登山道は絶えず変化しています。またルートがわかりづらいので登山者が少ないルートです。

 小爪峠へ向かうルートは大きくて美しい沢が続いています。水成岩からなる渓谷を流れる水は美しい清流になっています。

 冬場は水量の少ない場所で、ほとばしる水が凍りつき、氷柱やガラス玉のような模様をつくり出し、神秘的な氷の造形が見られます。

 そんな光景を期待して、冷え込む2008年2月上旬に区役所に勤めるMを誘って小爪峠へ向かいました。

 期待に反して登山道は進むにつれて雪景色となっていました。岩場付近は雪溜まりで、岩と岩の間に落ち落ちると雪溜まりのなかでもがく羽目になります。 

 持参したスキーのストックで岩と岩の隙間をたしかめながら沢沿いの登山道を登りました。風もなく曇天だったので、あまり寒さは感じませんでした。

 歩くこと1時間、そろそろ山頂近くのポイントに出るはずと思いきや、そこから15分歩いても一向にそれらしきポイントに着きません。

 ひざ下まである雪のなかを進んで行くと、登山者がつけたテープを見つけました。テープを確認してラッセルを楽しみながら先を行くMに「ルートが外れた、左、右」と声をかけ、さらに進むと登山者がつけた足跡(トレース)のあるルートに出ました。数日前にワンゲルの先輩が歩いた跡です。途中の沢ルートを雪のなかで間違い、金山から西山に通じるルートに出てしまったのです。

 歩いてきた場所はシャクナゲの撮影で何度も来ていました。テープを見てすぐに西山のシャクナゲルートだとわかりました。この分岐にも自分たちが建てた道標があり、それを見ると安心しました。

  Mはがむしゃらにラッセルを楽しんでいます。私は『そんなにガツガツやるとバテるよ』と下から声を掛けました。

 しばらくして、ようやく金山-小爪峠のルートに着きました。 Mは『ここで1本(休憩)』と言いますが、私は『こんな場所で休んだらいかん』と先を急ぎました。

 積雪は30cm。新しい雪のなかに足を入れると、無駄なエネルギーがいるので、縦走路に付いた登山者の足跡に自分の足を踏み入れ、小爪峠へと向かいます。Mは少し遅れてついてきます。先ほどの地点で休んでやるべきだったと反省しました。

 歩くこと20分、やっと自分たちの建てた小爪峠の道標に着きました。道標は雪をかぶり静かに立っています。

 ここで休憩、ヘルメットを外し、昼食と暖かいコーヒーを嗜みます。冷気が鼻から体へと循環していきます。

 小爪峠の広場は自分たちだけの静かな場所でしたが、Mはすっかりバテてしまい言葉少なでした。

 ここから湯の野までは下りのルートです。体が冷えないうちに、下山を開始します。腰まであるような深雪のなかを泳ぐように下って行った。「ヤッホー」下りは心のゆとりもあり、楽しい時間でした。

 下ること1時間余り、やっと雪が少ない堰へ下りてきました。ここから15分で登山口です。

 休憩中、沢のなかの石に乗っていた私はバランスを崩し、背中から水溜まりにはまり込んでしまいました。雪解けの冷たい水が背中に染み込んできます。登山道を下り、あと少しで登山口という時に、不用意に転んだりすることがあるものです。この時もそうでした。私のザックが水溜まりにハマってしまい、しばらく水のなかでもがきました。亀が甲羅からひっくり返ったような状態でした

 悪戦苦闘し、何とか起き上がれました。ザックのおかげで、ずぶ濡れにならなかったのが不幸中の幸いでした。

 登山口から車で湯の野のバス停へ降り、冷えた体を温めようとお風呂のある施設へ向かいましたが、残念なことに2カ所とも定休日でした。思い出深い雪山登山でした。

※春になり、なぜルートを間違ったのかをたしかめに行きました。本流より枝沢のほうが大きいため雪のなかでルートを間違ったのでした。ここに目印をつけて来ました。誰もが間違いそうな場所でした。今は小型道標を設置しています。

雪の登山道を歩くM
雪で埋まった小爪峠 積雪50cm(2008年2月6日)

2019年1月31日
脊振の自然を愛する会
代表 池田 友行

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