2024年11月21日( 木 )

創造的破壊という積極対応(1)

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 エネルギーから物流、日常生活のツールまで、100年に一度といわれる暮らしの環境変化が各方面で盛んに取りざたされている。その中心にあるのがAI(人工知能)の進化だ。手のひらに乗るスマホの機能はひと昔前の大型コンピューターの性能を軽々と上回るという。そしてそれはこれからも間違いなくその進歩を加速する。そこに待ち受けるのはさらなる変化である。

変化への対応は必須

 企業には常なる変化が不可欠だが、とくに大きな転換期には規模の大小を問わず対応を怠れば例外なく淘汰の大波にさらわれる。もちろん、小売業界も例外ではない。

 以前は消費市場、つまり消費者の嗜好変化に対応することに意味があり、その変化もある程度ゆっくりで多少の対応遅れなら何とか取り戻せたが、現代の変化はツールの変化もともない、嗜好だけにとらわれた変化意識ではうまく対応できない。加えて我が国の場合は人口減という特別な環境への対応ということも考えなければならない。人口減に対しては海外からの人の移動で補うなどの政策転換も始まっているが、それがうまくいくかどうかは誰にもよくわからない。これら複雑で先行きの見えない現在の状況にどう対処するかというのが小売業にとって差し迫った問題だ。

 変化対応には事後対応より積極的な事前対応がある。現代の環境変化は急激かつ極端である。だから事後対応という従来の手法ではおそらく間に合わない。やがて来る変化を前もって予測し、それに備えなければならないということだ。いうなれば積極的自己変革である。環境変化をじっくり見て対応するといったやり方では間に合わないのだ。

 たとえばキバは最初にそのロボットシステムをウォルマートに売り込んだ。しかし、ウォルマートはキバロボットシステムを採用しなかった。次にキバはアマゾンに対してより安い価格で売り込み、2013年3月、7億7,500万ドルでアマゾンはそのシステムを買った。買収後3カ月が過ぎたころ、アマゾンはそれを使っている企業に新規ロボットの供給停止を通告、さらに19年にはソフトウェアの提供も停止すると通告。導入していた企業にとって決定的な問題だったのは、いったんキバロボットシステムを導入すると後戻りができないことである。導入企業が選択できるのはアマゾンの言い値で契約するか廃業だ。アマゾンにとって当時、高い買い物といわれたキバロボットだが、今となっては安い買い物だったということになる。環境変化を事前に見抜く積極的自己変革こそ現代の競争ポイントという事例である。

 昨年予測した通り、アメリカ衣料品小売大手GAPの深刻な状況が店舗閉鎖というかたちで具体化した。その規模は全米800店舗中、30%以上の数百店舗といわれる。一般的にはその理由は毎年高い伸びを示しているEコマースの影響だといわれるが、一番の問題は店舗の革新を怠ったことである。店舗に魅力がなければお客は時間とコストをかけてやってはこない。リアル店舗には常にお客が魅力を感じる仕掛けが必要なのである。それを考えたイノベーションの継続があれば、一気に大量の店舗が業績不振に陥ることはない。GAPの1店舗あたりの売上は4.5億円余り。ユニクロの6.2億円に比べて大きく見劣りする。この5年間の売上も停滞したままである。一方、粗利益率は年々低下してきた。店舗の革新が進まないことで客数が減り、それをカバーするために価格訴求をせざるを得なくなる。過度な価格訴求でより多くの商品を売ろうとすれば、粗利益率は低下し、売り場は荒れる。顧客のブランド信頼性も揺らぐ。かくて一世を風靡したGAPのロゴもその神通力を失う。自らを破壊し、新境地を切り拓かない限り、他者から破壊される。GAPは店舗閉鎖の理由をその老朽化にあるとしている。リアル店舗を革新する投資を怠り、それが陳腐化するまで放置していたということである。今後、新規投資をEコマースに向けたとしても、すでにアマゾンだけでなく、ユニクロ、H&MやZARAの後ろ姿は遠い。

(つづく)

【神戸 彲】

<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)

1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

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