米中貿易戦争の行方 中国に依存するアメリカの軍需産業(1)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
アメリカが抱くさまざまな危機感
アメリカのトランプ大統領が仕掛けた中国に対する一連の関税措置は中国からの対抗措置を招き、あたかも通商貿易戦争の様相を呈することになった。大統領選挙戦のころから、「アメリカ・ファースト」を標榜するトランプ大統領であるが、エスカレートする一方の米中対決において勝ち目はあるのだろうか。
「習近平国家主席とは仲良くしたい。信頼できる相手だ」とことあるごとにツイッターではつぶやいている。ところが、「中国はアメリカから知的財産を収奪している。国際的なルールを守らない泥棒集団だ」と批判の声も荒らげる。どうやら、本心では中国は信用できないと思っていることは疑いようがない。
政治家として選挙で勝つためには、中国を叩くことが効果的だと判断していることは間違いなく、貧富の差が拡大する現在のアメリカ社会に蔓延する有権者の不満のはけ口に中国を利用しているのであろうか。「国際的なルールを無視する傍若無人な中国と渡り合えるのは自分しかいない」と訴えることで、溜飲を下げる国民が多いことを意識しているようにも見受けられる。
実は、近年、アメリカは中国に限らず、日本やカナダ、メキシコなど大半の通商相手国との間で大幅な貿易赤字を積み重ねている。とはいえ、とくに中国との間の貿易赤字は年々拡大の一途を遂げており、アメリカとすれば「我慢の限界」に達したということであろう。2018年1月から9月までの間だけで、アメリカの対中貿易赤字は2,260億ドルに達している。前年同期と比べ、340億ドルも赤字幅は増えている状況だ。トランプ大統領は18年3月、中国からの輸入製品に対して500億ドルの関税を課すと発表。その後、11月の中間選挙の直前にはさらに1,000億ドルの関税を準備する考えを明らかにした。
さらにいえば、西太平洋を舞台に米中間では軍事的な緊張が高まっており、アメリカの分析では「中国は対米貿易でため込んだ黒字を軍事力の増強に回すことで、これまでアジア・太平洋地域で圧倒的な影響力を保持してきたアメリカに挑戦しようとしている」というわけだ。
言い換えれば、「経済、安全保障の両面にわたり、中国がアメリカに追いつき、追い越そうとしている」との危機感がトランプ政権を覆っているのである。アメリカの国防総省が17年6月に公表した『アメリカ優位時代以降のリスク分析』には、そうしたアメリカの焦りと苛立ちが随所に散りばめられていた。
曰く「米軍はかつてのような他国の軍事的行動を思いとどまらせるような軍事的優位性を失ってしまった。苛立たしい限りであるが、我々は戦争に負けることを受け入れざるを得ない状況に追いやられている。ロシアや中国はこうしたアメリカ軍の限界に付け入り、軍事力の増強と影響力の拡大に邁進中だ。なかでも、中国の南シナ海における支配地域の拡張には目に余るものがある」。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸 (はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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