【東洋大立て看事件】学生が大学に抗議と質問状、「事実関係を残したい」
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東洋大学白山キャンパス(東京都文京区)に1月21日、「竹中平蔵教授による授業反対!」の立て看板を掲げ、ビラをまいた学生が学生部に連行され、「退学」をちらつかせながら2時間半叱責された事件で、当学生の船橋秀人(ふなばし・しゅうと)さん(23)が2月11日、大学側に抗議文と公開質問状を送付した。
提出したのは「抗議と謝罪要求」と「公開質問状」の2文書。いずれも簡易書留郵便で11日、投函された。前者は2枚で竹村牧男・同大学長に、後者は3枚で同大理事会に宛てられ、1週間以内に本人にメールで回答することを求めている。
「抗議と謝罪要求」では、学生部学生支援課の職員に2時間半にわたって詰問された経緯を説明。その際に遭遇した「恫喝(どうかつ)」「身体的拘束」「表現の自由に対する過剰な干渉」「広報の不当」に関する4つの不法・不当行為を挙げ、大学を代表する同学長に謝罪を求めている。
「恫喝」については、学生部の一室で「就職先での立場が危うくなるぞ」「大学のイメージを下げているんだぞ。責任を取れるか」などと執拗(しつよう)、または大声で脅されたことを明かし、「これらは明らかな暴力です」と訴えている。
「身体的拘束」については、職員5〜6人による恫喝が身体的自由を奪われたかたちで行われたことを挙げ、仮に禁止事項違反の非があったとしても、度を超していると指摘。「憲法18条で保障された『身体の自由』を侵す行為であり、刑法にふれる人権侵害」と告発する。
「表現の自由…」では、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の投稿を削除するよう迫られたことに触れ、「憲法21条で保障された『表現の自由』の侵犯」と指摘。さらに「大臣を歴任し事実上の公人である竹中氏への批判は、個人の誹謗(ひぼう)中傷にあたらないはず」とつづり、長時間にわたる強い削除要求は越権行為だとしている。
「広報…」では、報道各社の取材に対して「禁止行為を行うと場合によっては退学処分になることを当該学生に説明した」と釈明していることを取り上げ、「これこそ退学の勧告といえます」と反論した。立て看設置とビラ配布は『学生生活ハンドブック』に禁止事項として記載されているが、学則のどの条項に基づくかが明記されていないと指摘。「それにもかかわらず、学生部職員は、一方的に学則57条に該当する可能性があると脅してきた」と糾弾している。
「公開質問状」は、同学生が抗議活動を行う原因となった、現在の同大学の問題点を記す。すなわち、(1)「弱者切り捨ての竹中平蔵氏を大学で教鞭(きょうべん)を執らせることについて」(2)「実学偏重と人文系学部軽視について」である。
具体的に、(1)は「『正社員をなくしましょう』などと公言し、新自由主義的な政策によって、多くの国民の基本的人権を踏みにじるような人間を教授として招くことは、本学の理念である『知徳兼全な人材の育成』に反します」と始めている。
竹中氏が推進した労働者派遣法改正によって、労働者のおよそ3人に1人が非正規雇用になっている状況を説明した後、同氏が同大ホームページに掲載されている新任インタビューで「グローバル・イノベーション学」の正当性について述べた主張を引用し、「つまり竹中氏は、いまだ弱者を切り捨てる考えを護持し、今度はそれを学生に教え込もうとしていると考えざるを得ない」と両断する。
(2)では、「インド哲学科」「中国哲学文学科」など哲学系学部を統合再編して定員を削減する一方、「国際観光学科」の学部独立や竹中氏の所属する「グローバル・イノベーション学科」を含む「国際学部」開設など国際系学部学科を拡充してきた経緯を説明。
竹中氏が「グローバル・イノベーション学研究センター長」に2016年までに就任していた事実を示し、「人文系軽視・実学偏重」路線すなわち「学問軽視」の姿勢が「無駄を削除して競争力を高めようと唱える竹中平蔵氏を教壇に招いていたことに象徴されています」と指弾する。
その証左として、竹中氏が国公立大学の民営化、つまり国から大学の補助削減を提言し、『毎日新聞』の取材で「東大の土地を貸しビルやショッピングセンターにして、その上がりで研究すればどうか」と発言していることを挙げ、「大学も企業と同じようなコスト競争に晒(さら)すべきだと主張している」と批判する。
「これは学問の府のあり方として深刻な問題です。なぜならば、本来大学とは、短い期間で成果を上げる企業とは異なり、長い年月による積み重ねをもとに社会貢献への糸口を探る場であるべきだからです。もし大学が企業と同じように目先の利益ばかりを追求するようになれば、短期的な成果主義によって学問の自由という大学本来のあり方が壊れてしまいます」
こう指摘し、同大の現状が「諸学の基礎は哲学にあり」とする建学の精神に反していると結ぶ。
そのうえで、「質問事項」として、次の2点を挙げている。
(1)竹中平蔵氏を本学の教授として招いていることは、東洋大学の理念に反するものではないのでしょうか。
(2)上記のような本学の実学偏重の傾向は、学問の自由を侵すものではないでしょうか。
筆者は11日深夜、船橋さんに電話取材した。この2文書を提出した狙いについては「あの事件をちゃんと事実関係として残したかった。やりとりを録音できなかったので、向こうも『(退学勧告や恫喝など)していない』といえた。この大学で実際に起きた事実として、世間一般の人々や学内の後輩たちに知ってもらいたいと思った」と語った。マスコミへの情報提供については、「まだ今のところはしていない」と明かした。
結果をどう扱うかについては、「回答次第ですが、下手な対応をすれば、学生や輿論(よろん)を刺激することになるでしょう」。
この3月に卒業する船橋さんは、「同じ大学の学生たちには、これを機に考えてほしい。民主主義は事実を知ることが基本。私の考えや取った行動については賛否両論あると思うが、一人ひとりが考えることが重要」と強調した。
事実を知る学生と国民が増える中、大学側がどのような回答を示すのか。小さな事件が大きな問題を提起している。
▼関連リンク
・「大学が終わっていく」、立て看掲げた東洋大生(前)
・「大学が終わっていく」、立て看掲げた東洋大生(後)<プロフィール>
高橋 清隆(たかはし・きよたか)
1964年新潟県生まれ。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。『週刊金曜日』『ZAITEN』『月刊THEMIS(テーミス)』などに記事を掲載。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&Kプレス)、『亀井静香—最後の戦いだ。』(同)、『新聞に載らなかったトンデモ投稿』(パブラボ)。ブログ『高橋清隆の文書館』。関連キーワード
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