【連載】コミュニティの自律経営(54)~東北/三陸ツアー
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元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。
連載の第1回はこちら。東北/三陸ツアー
もやい九州では、陸上部、朗読部、歴史部などさまざまな大人の部活に取り組んできたが、特筆すべきは、東日本大震災直後から毎年続けてきた「東北/三陸ツアー」である。これまでの取り組みを以下にまとめておきたい。
定点観測の地、陸前高田市
震災から約2カ月後の2011年5月7日に訪ねて以来、岩手県内で最も被害の大きかった陸前高田市への毎年の訪問は欠かしたことがなく、もやい九州東北被災地ツアーの定点観測の地である。
その陸前高田市は人口24,246人中1,757人(行方不明者を含む)実に7%の市民が犠牲となり、最大17mを超える大津波により、市役所庁舎を含む市の中心部が壊滅し(=市街地そのものがなくなった)、家屋倒壊戸数は3,341棟、地震・津波による家屋の被害は9割を超えている。それだけに、我々が見てきたどの被災地よりも大規模な復旧・復興の工事が展開されている。海岸線には12.5mの防潮堤、中心地だった高田地区の土地を8~10m嵩上げし市街地を再建、市街地の嵩上げには近隣の山(標高120mを40mに)を切り崩し、その土砂を総延長3,000mにおよぶ専用のベルトコンベアーで搬入して造成、切り崩した山は高台移転の住宅地づくりが行われている。
2011年5月以来、気仙町にあった八木澤商店本店跡地付近から定点観測した市街地の概観は、以下のようなものである。
【2011年5月7日】
道路上の瓦礫はとりあえず片付けられているが、敷地内の瓦礫は手つかずの状態。とにかく静かで、ウミネコの声と時折瓦礫を片付けているのだろうか、「カラーン」という乾いた音が耳に残っている。【2012年4月13日】
道路上のみならず、宅地の瓦礫も片付いているが、それが積み上げられたピラミッドのような瓦礫の山がただただ連なっていた。震災から1年、重機は入ってきているが、復旧・復興の道のりの険しさを痛感させられた。【2013年10月28日】
連なるピラミッドの山のような瓦礫は片付いていた。宅地のなかにはあちこちに重機やクレーン車が入り、高台での宅地造成のための山の切り崩しが始まっていた。定点観測地のそばに立つ幸せの黄色いハンカチのモニュメントが立派になっていて、たくさんの黄色いハンカチがはためいていた。【2014年8月9日】
この5月に八木澤商店の新工場が一関市大東町に完成、奇跡の一本松近くに八木澤カフェも出店。陸前高田市内ではベルトコンベアーの柱が林立し、嵩上げ工事が本格化しようとしていた。【2015年11月13日】
前回の訪問から1年以上が経過し、嵩上げ工事や市街地の宅地造成が進み、道路もつけ替えられ、旧八木澤商店本店跡での定点観測はできなくなっていた。随分嵩上げが進んでいるようであるが、造成地に示されている造成計画の高さからするとまだまだ土砂の搬入が必要のようである。震災から4年半、いまだ市街地では嵩上げ工事と造成工事の段階で、上物は一戸もなく、ここにどのような人たちのどのような生活が始まるのだろうかと考えると暗然となる気持ちが抑えられなかった。【2016年10月23日】
この年は途中の列車の遅れもあり、陸前高田市内に入ったときにはすでに日が傾いており、定点観測の地にたどり着いたときには日がどっぷり暮れてしまった。市街地に林立していたベルトコンベアーはすっかり姿を消していた。しかしながら、市街地建設はまだまだこれからなのだろう。そして、6年目の平成29年(2017)7月8日、今回は石巻、南三陸、気仙沼を通って、陸前高田市内に入った。いつも一関方面からなので、初めてのルートである。10m程も嵩上げされた見上げるほどの宅地が続き、気仙大橋の開通もあと少し。日本百景にも数えられていた高田松原のあたりは防災メモリアル公園として整備されるようである。道の駅タビック45は震災遺構として保存されており、建物に記されている津波高14.5mの標示はあまりにも衝撃的である。同じ敷地には東日本震災追悼施設や復興まちづくり情報館などが整備されていた。この日の宿である箱根山テラスに向かう車窓から、かつては7万本の松原が続いていたであろう海岸線に屹立する高さ12.5mの防潮堤の無機質な景色に息をのみつつ、陸前高田市の復興が目指すまちづくり「海と緑と太陽との共生・海浜新都市の創造」の険しい道のりに胸の塞がるような思いを禁じ得なかった。
その後、陸前高田市は毎年訪ねているが、令和2年(2020)には今泉の八木澤商店跡地付近は発酵テーマパークとして「CAMOCY」が誕生しており、発酵文化の拠点となっている。また、高田松原には防災メモリアルパークが完成しており、東日本震災追悼施設や復興まちづくり情報館と一体となった整備が進み、高田松原の復元に向けた松の植樹も進んでいる。奇跡の一本松の影が少し薄くなってきたかな?しかし、嵩上げされた市街地にはまだまだ空地が続く、陸前高田の復興の道のりはまだまだ長く遠い。
市民と議員の条例づくり交流会議
市民と議員の条例づくり交流会議には、平成20年(2008)から参加したが、地方開催も始まっていて、事務局の亀井誠史さんから、福岡での地方開催を計画できないかとの相談があった。ついては、前田隆夫さん、神吉信之さんと協力してほしいと。2人とももやい九州のメンバーなので、もやい九州を起点に自治体議員に広く声をかけて計画を進めていったが、取り組む内容を含め準備には半年をかけ、月に2回ペースでの実行委員会はハードだった。
僕はいずれも事務局長の立場で関わったが、多士済々のもやい九州メンバーの活躍でSNSではTwitter を駆使したり、議員対象では初めてワールドカフェなども投入、いずれも先駆的な取り組みで、もやいメンバーを中心とした取り組みは、自治体議会改革の一翼を担っていった。
▼市民と議員の条例づくり交流会議in九州2010
「九州から始まる 見える化・議会」
・日時:平成22年(2010)5月29日(土)
・会場:パピヨン24ガスホール
・基調講演/廣瀬克哉さん/法政大学・自治体議会改革フォーラム
『議会改革の先に見えてくるもの ―議会無用論は克服できるのか―』
【参加者:400名】▼市民と議員の条例づくり交流会議in九州2012
「見えたか?議会 ~3つ(視点・接点・論点)の再点検~」
・日時:平成24年(2012)10月27 日(土)
・会場:パピヨン24ガスホール
・基調講演/廣瀬克哉さん/法政大学・自治体議会改革フォーラム
『議会改革 ~成果志向への展開を!~』
【参加者:270名】▼市民と議員の条例づくり交流会議in九州2015
「見てるか?議会 ~市民と議員と議会のもやいなおし~」
・日時:平成27年(2015)10月31日(土)
・会場:さざんぴあ博多
・基調講演/廣瀬克哉さん/法政大学・自治体議会改革フォーラム
『自治体議会改革のこれまでとこれから』
【参加者:150名】「志野」での迎撃会と大望年会
もやい九州といえば、迎撃会。行政経営フォーラムの九州の地域部会としてスタートしたにもかかわらず、もやい九州には、北は北海道から南は沖縄まで、日本全国にメンバーは広がっている。なので、地域ごとに「江戸組」とか「肥後組」とかもあったりする。
というわけで?各地から福岡入りするメンバーがあれば、飲み会をセットする。それをもやい九州では、いつのころからか「迎撃会」と呼ぶようになった。「〇月×日、出張です。迎撃会お願いします」みたいなメールがMLを飛び交う。九州組が東京出張すれば「江戸組」が迎撃会をしてくれる。福岡/博多では春吉の「小料理/志野」が常設会場で、冬だろうが夏だろうが、「志野」の絶品水炊きを囲んだ。なので、志野の水炊きのファンは全国にいる。「志野」の水炊きは本当に美味しかった。横浜生まれのくせに博多のごりょんさんのような気っ風の「かあさん」もメンバーに愛されていた。毎年恒例のもやい九州の大望年会も「志野」を貸し切ってやっていた。1階と2階を行ったり来たり、床が抜けやしないかとハラハラしながら?その大望年会のために山形や福島から駆けつける剛の者もいた。
残念ながら8年前に閉店してしまって、今は迎撃会場にも困ってしまう。「志野」ではどれほどの仲間とどれほどの盃を重ねたか?そして、どれほどの「この指止まれ」が生まれたか?「志野」は言ってみれば「梁山泊」だった。
この数年はコロナ禍でめっきり迎撃会も減ってしまったが、もやい大望年会は、コロナ禍になってもオンラインで続けてきた。23年の年末は4年ぶりのリアル開催で、メンバーそれぞれの「行く年、来る年」を漢字一文字でポストイットに書いて、みんなの前で一年を振り返り、翌年の抱負を発表するメインイベントが復活した。これをやらないと一年が納められないし、一年が始まらないのだ。
(つづく)
<著者プロフィール>
吉村慎一(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
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