【業界を読む】障がい者就労支援「A型」の崩壊構造 制度が抱えた歪みと再構築への道
就労継続支援A型は、障がいのある人の働く場として期待されてきたが、給付金依存や人材不足など構造的な歪みが限界に達し、2024年改定を契機に閉鎖が相次いだ。理念と現実の乖離が露呈した今、制度を超えて“働く”在り方そのものが問われている。
就労継続支援A型の
構造的限界
就労継続支援A型は「障害者総合支援法」に基づく就労支援制度の1つで、通常の企業で働くことが難しい障がいのある人が、事業所と雇用契約を結んだうえで働く経験を積むことを目的としている。最低賃金の適用を含む労働法の枠組みのなかで就労を継続できる場として、制度上は“福祉”と“労働”を結ぶ中間領域を担う役割を期待されてきた。
A型制度の成立には段階がある。2003年に施設が提供するサービスを利用者が契約によって選択する仕組みへ移行したことが背景となり、福祉と労働の関係性が再整理された。続いて06年の障害者自立支援法によって、雇用型のA型と非雇用型のB型という現在の制度骨格が整備され、13年の障害者総合支援法では難病の人も対象に含めるなど、支援対象の幅が広がった。
しかし、制度がかたちを整えた一方で、現場に出現した姿は理念とは乖離していった。A型の収入の大部分は国の給付金で構成され、利用者の確保がそのまま事業の収益に結びつく構造が定着した。生産活動の強化や段階的なスキル育成よりも、まず“定員の維持”が優先されるようになり、障がい者の雇用数が制度利用の“目的”ではなく“手段”となる事業所も現れた。結果として、利用者が働く成果よりも制度枠組みのなかで“頭数”として扱われる場面が増え、本来目指すべき「働く経験の積み重ね」や社会参加の理念は次第に曖昧化していった。
こうした歪みを是正するため、国は段階的に制度見直しを進めた。24年の報酬改定では、生産実績の評価を高め、給付金依存からの脱却を促す方向へ舵を切った。しかし、従来の収益構造に依存していた事業所は制度転換に耐えられず、全国で閉鎖や事業転換が相次ぎ、数千人規模の利用者が働く場を失う事態となった。改革の影響は利用者だけでなく、制度を支える財源を負担する地域社会にも波及し、A型制度の持続性そのものが問われる局面に入っている。
複合的な崩壊要因
現場が抱えた負荷
A型が直面する危機は、制度設計の問題だけに還元できない。10年代には参入ブームによって事業所数が急増し、福祉の専門性と事業経営の両方を備えた人材が不足するなか、どちらかに偏った運営が常態化した。一般就労に向けて必要な力を育てることと、事業を持続させることの両立が難しくなり、支援の質は事業者によって大きくばらついた。
さらに外部環境も厳しさを増した。最低賃金の上昇、委託作業単価の下落、受注の不安定化、福祉人材不足など、構造的な問題が同時に進行し、A型は赤字リスクの高いモデルになっていった。支援員の慢性的不足は、利用者への指導や企業との連携を弱め、そのことがさらに生産性を押し下げる悪循環を招いた。
行政側にも限界があった。A型は福祉と労働の境界に位置するため、実地の運営を一体的に把握する監督体制が十分に機能しなかった。地域によってはA型が障がい者の主要な受け皿となっており、強い指導が即座に閉鎖につながる懸念が、行政を慎重にさせた側面もある。利用者も「ここを失えば働く場がない」という不安から、問題を指摘しづらい環境が続いていた。
A型をめぐる歪みは、事業所だけの問題ではなく、利用者・行政・地域社会を含む複合的な構造が絡み合った結果として、長く見逃されてきたといえる。
福祉の常識を覆した
革新的な経営モデル
こうした停滞のなかで、従来のA型の枠を超える運営を実践してきた企業が(株)カムラック(福岡市博多区)である。同社が福祉分野に参入した契機は、創業者・賀村研代表がA型事業所に業務を委託した際の違和感だった。依頼した作業が「難しい」「できない」と断られるなかで、問題は利用者の能力ではなく、事業所側が業務を教え育てる仕組みを備えていないことにあると気づいた。この気づきが“A型の運営そのものを再設計する”という意思決定につながった。
13年に設立された同社は、利用者に1日8時間のフルタイム勤務を前提とするという、当時の福祉領域では例のない方針を打ち出した。賀村代表がIT業界出身であることを踏まえ、付加価値が高く企業ニーズの強いIT関連業務を中心領域に設定し、業務プロセスを細かく分解して段階的にスキルを習得できる仕組みを整備した。従来A型に多かった単純作業からの脱却を図り、利用者が企業から“即戦力”として評価されるケースが増えている。
さらに同社はA型だけでなく、B型事業や放課後デイサービスなど関連領域へ事業を広げ、障がいのある人の社会参加を一貫して支える体制を構築してきた。カムラックの取り組みは、A型が理念として掲げてきた「労働を通じた自立支援」の具体的な実践例として注目されている。
再構築へ向けて
働く選択肢をどう広げるか
大量閉鎖が相次いだ今回のA型の動揺は、制度が抱えてきた課題を可視化した点で深刻である。しかし同時に、障がい者の働き方そのものを社会が改めて問い直す契機にもなった。カムラックが示したように、適切な業務設計と訓練環境が整えば、障がいのある人はたしかな戦力となり得る。A型の再構築が広がれば、それは単なる制度の微調整ではなく、障がい者雇用全体を前向きに変えていく動きにもつながる。
制度の混乱を超え、働く選択肢をどこまで広げられるか。その問いこそが、今後の就労支援の方向性を決めるカギとなる。
【岩本願】








