2024年12月22日( 日 )

【原発を考える2】日本の原発は安全か?~廃炉、そして再生可能エネルギーへの大転換を

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須賀 等(山梨学院大学 国際リベラルアーツ学部 教授・副学部長)

中西経団連会長が、「早く再稼働してほしい」発言

 この2月14日、日立(及び経団連)会長の中西宏明氏は、静岡県の浜岡原発を訪問し、大規模な防潮堤工事や地震対策を見て、今度は「万全の安全対策を積み上げてきている。早く再稼動して欲しい」と述べたと報道されている。浜岡原発は中部電力が老朽化した2基を廃炉にし、残りのうち2基を(経年20~30年程度)を再稼動したい意向で現在原子力規制委が再稼動可否を審査中だが、本当にこの中西氏の言は正しいのだろうか?

 同原発は東日本大震災当時、余震の続く中で当時の菅首相が首相要請で運転停止させたが、規制委の調査でも活断層が29本程度敷地周辺に確認されおり、必ず起こると言われている東南海大地震の震源に近く首都圏からも150キロ程度しか離れていない。巨大な防潮堤を築いても大津波の直撃に防潮堤は完璧でないことは東日本大震災でも証明されおり、しかも津波の予測される高さ22メートル ぎりぎりまでしか高さもなく、あとは間の緩衝地帯となる海側の砂丘で津波の勢いを止めるというもの。

 地元静岡県の川勝平太知事は安全性に疑義を持ち、再稼動に慎重な姿勢を崩していない。一方、首都圏まで100キロ程度の茨城県東海村の1978年建造・40年以上経た東海第2原発は今般原子力規制委が再稼動審査に合格させたが、再稼動に関し判断できる協定を結んでいる近隣5市と東海村は再稼動に非常に慎重で、拒否権を持つかどうかで原電社と各自治体の間に緊張が走っている。

国内の原発事故で、避難計画は自治体まかせ

 東海第2原発は東日本大震災時、たまたま大震災の2日前にかさ上げ完了し6.1メートルにした防波壁が5.4メートルの津波に対して一部機能したものの、防波壁に穴があいていたため一部津波で浸水して原子炉冷却用のデイーゼル発電機の海水ポンプが故障、冷却機能消失ぎりぎりで何とか福島第一原発同様の悲劇は防げた。もう少し津波が高ければ福島同様の状態となり、首都圏全体が居住不可能になるところであった札付きの危険老朽設備である。しかも、浜岡も東海第2原発も大事故を起こした福島第一原発同様の沸騰水型軽水炉だ。

 安倍首相は日本の原発を称して「世界最高水準の安全基準」と言うが、実態は欧米諸国の基準と比較してどうなのだろうか? そもそも2014年に原子力規制委の田中俊一委員長(当時)は、「規制委は原発が100%安全だと保証するものではない」と発言したが、実はこの発言には深い意味がある。すなわち、規制委審査は基本的には新しい規制基準に適合しているかどうかを判断するだけで、その対象は上記のように地震・津波・噴火等の大規模自然災害に基準レベルまで各原発が土木工事的に耐えられそうか見ることが中心なのだ。一番重要な、炉心溶融のような過酷事故が起きた場合の、周辺住民の避難計画や原発自体の構造上の最新鋭設備の取り付け等は一切審査範囲外だ。

 日本の54基のすべての原発で、1基たりとも完璧な避難計画は策定されておらず、これらはすべて周辺自治体の責任となっているままだ。上記の東海第2原発周辺住民総数は約100万人だが、いったん過酷事故が発生した際、安全な時間内に周辺住民すべてを避難させることはできず、いわば防潮堤等のみに頼る不完全な安全対策でしかない。我々の記憶でも、フクシマの水素爆発で周辺住民の避難計画が無く、特に近隣大熊町の双葉病院と介護老人保護施設ドーヴィル双葉の入院・入所の高齢の入院・要介護患者をバスに載せて長時間避難先まで移動させ、それに耐えられない方々44名がバス車内・避難先で亡くなったのはまだ記憶に新しい。

エアバス機が衝突することを想定する、欧州の原発安全基準

 一方、日本の倍近い数の原発を有する米国にはNRC(The Nuclear Regulatory Commission=原子力規制委員会)が設置されているが、NRCは日本の規制委の4倍近い人数で、原発運営に関する独立した強大な規制権限を有し、その最たるものは十分な時間内に周辺住民が安全に避難できる避難計画そのものを審査することで、きちっとした避難計画のない原発は一切稼動できないことになっている。前述の東海第2のケースとの違いは著しい。

 また欧州では、EPR(European Pressure Reactor:欧州加圧水型炉)と呼ばれる原子炉を、経営破綻した仏アリバ社と原発撤退した独シーメンス社が共同で設計開発したが、その基準は現代で採用可能なすべての技術を動員するもので、特に、(1)いわゆるCore Catcherという設備で、核燃料が溶融・圧力容器が破損した場合でも、溶融した燃料を受け止めて原子炉底の横で広がる溶融燃料を冷却する面等からなる(この技術は中国も採用)、(2)強力な4種の独立、非常冷却システム(原子炉停止後3年にわたる崩壊熱を冷やすのに十分なもの)、(3)極め付けはエアバス機(A380)規模の航空機の衝突や内圧に耐える2層のコンクリート壁(厚さ2.6メートル)等からなる。

 これらは日本の老朽原発はもとより新型のものにも一切装備されておらず、このコストが膨大なことから欧州各国をはじめ世界中の原発建設費が暴騰した。欧州ではこの基準を満たさないものは今後過酷事故の際の炉心溶融のリスクが担保できないと考えられて、新設できなくなっている。この考え方は国際的にも多くの国に広がり標準とみなされつつある。前回も紹介したが、米国原発の大半は地盤が古く強固で地震リスクが少ない米東海岸側に設置されており、地震・津波・噴火のリスクが高い西海岸諸州にはほとんど原発はない。欧州の原発も最大保有国の仏は元来地震が非常に少ない。しかし米欧共にそれでも万一の過酷事故に備え、コストが何倍になろうとも安全確保を最優先する姿勢を明確に打ち出している。

年々薄まる、原発稼働のインセンティブ

 一方、日本では自然災害を凌ぐだけで、我々自身がフクシマで経験したような過酷事故・炉心溶融が起きた場合の安全対策はお寒い限りだ。一度原発の過酷事故が起きてしまった場合に被害からの回復は容易でなく、子々孫々まで続くことを踏まえ、可能な限りの対策なしには原発を動かさないという欧米の姿勢と、日本のようにコスト増と言いつつ、まだ欧米よりは安上がりの安全対策しか取らない姿勢と、どちらが安全かは明白だろう。ましてや前回紹介した通りに、原発に頼らずとも大幅に安い自然再生エネルギーに実用化・商用化によるコストダウンが顕著な今、原発を無理して動かすインセンティブは増々薄れている。

 今般、玄海原発2号機(佐賀県)の廃炉が決定したが、これで日本の原発廃炉予定はすでに24基となる。一方、電力会社の経営は原発と共に益々逼迫しつつある。安全問題とあわせ、再生可能エネルギーの実用・商用化の世界的潮流に国を挙げて大転換し、原発をすべて廃炉することが一番合理的かつ日本の国益にかなうのではないだろうか?

(了)

〈プロフィール〉
須賀 等(すが・ひとし) 

早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。ハーバード大学経営管理大学院修了(MBA取得)、三井物産や三井グループ系ベンチャーキャピタルのエム・ヴィー・シー代表取締役社長などを経て、タリーズコーヒージャパン取締役副会長。丸の内起業塾塾長。国際教養大学や京都大学、慶應大学で教鞭を執ったのち、2016年から現職

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