沈香する夜~葬儀社・夜間専属員の告白(4)
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私は夜間専門で葬儀場に勤務する契約社員。出社するとまず自身の勤める葬儀場はもちろん、白板に記された各関係葬儀場の施行状況を確認する。
その白板には、故人のこの世との別れの儀式が滞りなく進められるように、通夜状況や各喪家の宗派をはじめ、葬儀に関する事細かな情報が書かれており、昼夜・元日を問わず年中無休24時間で葬儀場は動き続けている。その白板に近年「家族葬」という標記を目にすることが多くなった。
実はこのような仕事をするまで葬儀の種類などほとんど知らなかったし、気に留めることもなかった。国葬、社葬、密葬などの言葉はニュースや映画などで見聞きする程度だった。
私たちが経験する葬儀を分類すると「一般葬」「社葬」「合同葬」「家族葬」「密葬」「一日葬」「直葬」「御別れ会」「自由葬」などがある。
これらの分類のなかで「一般葬」と「家族葬」には特別な区別は見受けられない。しかし「家族葬」を前面に打ち出して広告している葬儀社は増加しており、必然的に私が勤める葬儀場の白板にも「家族葬」との標記が多くなったのである。不謹慎かもしれないが葬儀社は「家族葬あります」と掲げることで「安価でも素敵な葬儀が可能です」とアピールをし、御遺族側は「なるべく、葬儀にお金を掛けず済ませたい」と口に出さずに済むという経済活動の現れなのだろうと私は勝手に推測している。
日本消費者協会の調査によれば、葬儀にかかる費用の全国平均額は約189万円だという。費用の内訳は葬儀本体費用の平均が約122万円、飲食の費用が約34万円、寺院の費用が約44万5千円というものだ。葬儀本体には葬儀場使用料、火葬場の利用料、祭壇や棺、葬儀進行者や、アシスタント費用、交通警備員費用などが含まれ、飲食費用には通夜振る舞いや、精進落としなどで、寺院費用とは念仏代だ。
前述の日本消費者協会の調査結果を鑑みると、ご自身、ご家族の葬儀の予算や有り様、葬儀社との費用交渉などがイメージしやすくなると思う。
私自身の葬儀を考えてみることにする。まず、私は特別に信仰する宗派をもたないので念仏代を値切ることにしよう。納骨の時くらいはお寺さんに拝んでいただくことにはなるだろう。
譲れないのは、通夜振る舞いだ。貴重な時間をわざわざ割いて駆けつけてきて下さった方々には感謝の意味を込めて見栄を張りたいものである。一方、ほとんどが近い親族しか会葬しないであろう葬式自体にはお金を掛けなくて良いと考える。祭壇は質素でよいし、棺も燃やすので一番安価なものでよい。
葬儀のMCは知人の元アナウンサーに頼み、通夜のBGMは古くからのバンド仲間たちにスイングジャズでも頼もう。通夜料理は立食のバイキング形式での提供が望ましいだろう。 もう仏式の通夜の様相はなくなり、通夜ではなく結局は「御別れ会」となるのだろうか。こうなると、翌日の本葬も必要ないから葬儀場から火葬場に直接搬送してもらい火葬場で
簡単に読経していただき納骨となる。そんなことを考えていると、楽しい気分になる。葬儀社や家族には事前に相談しておく必要がありそうだ。一昔前までは一般人には行うのが難しいようなアレンジに富んだ葬儀もそれなりの葬儀社に依頼すれば叶えてくれる。
さあ、私が望むような葬儀をあげるためにも頑張って働いて稼ぎ、義理堅く生きていこう。私にもその日は必ず訪れるのだから。
(つづく)
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